世界の紛争地を歩いたフォトジャーナリスト長倉洋海の信念「人と出会うことでしか次の時代は見えない」
内戦、難民、貧困、差別……。どんな環境下であっても誇りを捨てず、たくましく懸命に生きる人々、そして子どもたち。紛争地をはじめ、世界各地を訪れ、そこにいる人間たちと深く関わり合いながら写真を撮り続けてきたフォトジャーナリストの長倉洋海。
長倉氏は、時事通信社勤務を経て、1980年よりフリーランスとして活動。アフガニスタン抵抗運動の指導者アフマド・シャー・マスードやエルサルバドルの難民キャンプの少女へスースなどを長期に渡り取材してきた。そのなかで彼が見てきたものとは……。
⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1285152
「メディアの流す情報や、経済・効率優先の原理からこぼれ落ちたものの中に、これからの時代を切り開く大きなヒントがある」
その信念のもとに、紛争地から辺境の地まで様々な場所を訪れ、人々に密着してきた。37年間にも及ぶ取材のなかで、そもそも長倉氏の価値観や考え方の基盤となったキッカケとはなんだったのか。
「エルサルバドルの難民キャンプで18年間撮り続けてきた少女ヘスースとの出会いが私を変えた。彼女の結婚式に招かれたが、式のあとのインタビューで『友達の中にはこのキャンプ出身というのを恥ずかしいと思っている子がいるが、私にとっては、ここは“人生の宝箱”。さまざまな思い出が詰まった大切な場所』と話した言葉が忘れない」
「ヘスースも出会った子どもたちも自分の人生を選ぶことはできなかったが、与えられた場所で懸命に生きていた。貧しくても分かちあうことを知っていた。そして苦しみを決して他の人や社会のせいにしなかった。私は出会った人々のそうした姿を美しいと感じた。それを私のカメラでとらえたいと思ったのです」
また、特に印象的だった出来事について、長倉氏はアフガニスタン抵抗運動の指導者マスードを挙げる。
「同年代の彼と暮らした500日の日々が忘れられない。『いつ死ぬかを決めるのは神、その時までは燃焼させるように生きたい』と彼は話していたが、最前線に向かう途中で遅れた私に『ここには地雷があるんだぞ、生きて日本に帰りたくないのか』と、厳しい表情で言われたことがある。のちに彼は狂信者の自爆テロで倒れたが、もっともっと生きたかったのだろうなぁと思う」
前述のアフガニスタンやエルサルバドルをはじめ、南アフリカのアパルトヘイト、戦乱のバルカン、カンボジアのクメール・ルージュ、森に生きるアマゾンの民など……。
そんな彼が“激動の世界”の現場で37年間をかけて生み出した作品213点を収録した写真集『フォトジャーナリスト 長倉洋海の眼 – 地を這い、未来へ駆ける』(クレヴィス)が2月28日に発売される。また、同タイトルで、2017年3月25日(土)~5月14日(日)の期間、東京都写真美術館にて展覧会も開催される。
会期中の土日と5月3日(水)~5日(金)には長倉氏によるギャラリートーク&サイン会が行われ、4月2日(日)にはゲスト西原理恵子氏を招いた特別対談も予定されている。
「どんな時代であろうと人と出会い、人を見つめることでしか次の時代も新たな世界も見えてこない」
本記事では、彼の代表作と近作のなかから、特別に6作品を公開した。今回の写真展開催によせ、長倉氏は次のように語る。
「私が37年写真を撮り続けてきて思うことは、『一人一人の人間が生きているということ自体が多様で美しい』ということ。ニュースなどの表層の流れに目を奪われず、その底流に流れる『生きる』ということに視線を向けてきた作品を中心に展示をしたく思います」
まさに、長倉氏の集大成とも呼べる展覧会。ぜひ希代のフォトジャーナリストの37年間の軌跡を感じ取って欲しい。
<取材・文/藤井敦年>
明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスで様々な雑誌・書籍・ムック本・Webメディアの現場を踏み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者として活動中。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。趣味はカメラ。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi

アフガニスタン抵抗運動の指導者マスード 1983年 (c)Hiromi Nagakura

難民キャンプの少女ヘスース エルサルバドル 1990年 (c)Hiromi Nagakura
37年間をかけて長倉氏が伝えたかったものとは…
苦しみを他人や社会のせいにせず、懸命に生きること

アフガニスタンの国技ブズカシ 2013年 (c)Hiromi Nagakura

選挙の勝利を喜ぶゲリラたち ローデシア(新生ジンバブエ) 1980年 (c)Hiromi Nagakura

アマゾンの先住民ヤノマミ族 ブラジル 1995年 (c)Hiromi Nagakura

生まれたばかりの子を取り囲む戦争避難民の子どもたち エルサルバドル 1982年 (c)Hiromi Nagakura
明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスで様々な雑誌・書籍・ムック本・Webメディアの現場を踏み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者として活動中。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。趣味はカメラ。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi
●『フォトジャーナリスト 長倉洋海の眼 - 地を這い、未来へ駆ける』
日時:日時:2017年3月25日(土)~5月14日(日)10:00~18:00(木・金は20:00まで)※入館は17:30まで
場所:東京都写真美術館 地下1階展示室
休館日:月曜日 ※5月1日(月)開館
料金:一般800円(640円)、学生700円(560円)、中高生・65歳以上600円(480円)
※()内は20名以上の団体料金
※小学生以下 都内在住・在学の中学生および障害手帳をお持ちの方とその介護者は無料
※第3水曜日は65歳以上無料
●特別対談
「たった一人の戦場」を語る― 長倉洋海 西原理恵子
日時:4月2日(日)14:00~15:50(開場13:30)
会場:東京都写真美術館1Fホール(定員)190名
お申し込み方法:当日10:00より、1Fホール受付にて入場整理券を配布いたします。
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『フォトジャーナリスト 長倉洋海の眼
』 フォトジャーナリスト・長倉洋海が世界各地を訪れ、出会った人と時間をかけて深くかかわり合いながら、撮り続けてき た37年間のドキュメント。 ![]() |
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