更新日:2022年10月06日 00:01
エンタメ

「アニソン好き」「嬢メタル好き」が恥ずかしくて人に言えなかった…失われた20年の苦い記憶【山野車輪】

メタル・クィーン浜田麻里から嬢メタルへ

 最初に聴いたのは、2ndアルバム『ROMANTIC NIGHT~炎の誓い』だった。LOUDNESSの樋口宗孝プロデュースによる名盤であり、1曲目に、彼女の初期の代表曲「DON’T CHANGE YOUR MIND」が収録されている。  ここから筆者は、女性ヴォーカルのジャパメタの発掘を開始することになった。SHOW-YA、Terra Rosa、魔女卵、ROSE、早瀬ルミナ、早川めぐみなど、いろいろと買い漁った。とはいえ、しょせんは高校生の財力であり、たかが知れているのだが。

著者が買い漁った嬢メタルのLPコレクションの一部(著者撮影)

 思い返すと小学生の頃、クラスの男子全体で、アマダの2枚10円のカードや、給食の牛乳ビンのふた、ビー玉などの収集に熱くなっていた時期があった(そういえば『ドラえもん』で、王冠コレクションの話があったな……)。筆者はそれ以外にも古銭収集、ギザ付き10円玉収集にもハマった。また藤子不二雄マンガの収集を始めたのも小学生の頃からで(『月刊コロコロコミック』の影響)、自転車で市内の古書店を回り始めた。  嬢メタル収集のために、中古レコードを漁るようになったのは、その延長線上にあった。ちょうどこの頃、レコードからCDに切り替わる過渡期で、中古レコード屋やレンタルレコード屋、デパートの中古市などさまざまな場所で、レコードがゴミのような値段で投げ売りされており、少ない小遣いの中から買い漁った。だが、よく分からない世界だったので、ハズレも少なくなかった。だからこそ当たりのレコードは今も価値ある宝物となっている。  音楽への入り口の時期に、レコードが投げ売りされていたことが、ここまでハマってしまった大きな要因だった。もしも、あと3年生まれてくるのが遅ければ、嬢メタル道を歩むことはなかっただろう。

アニソンの代用品として嬢メタルが必要だった切実な理由

 筆者が、現在で言うところの嬢メタルを聴きはじめたのは、アニソンの代用品としてだったが、アニソンの代用品を探すことに熱くなったのには、もうひとつの理由があった。  それは、アニソンが趣味であることが「恥ずかしい」ことだと思っていたのだ。いや、思い込まされていたと言うべきか。  かつてオタクは、オタクであるというだけで蔑視されていた。当時からのオタクは、誰でも経験していることだと思う。筆者が中学生の頃、アニソンのレコードを買ったところをクラスメートのヤンキーグループの一人に見られ、そのグループからバカにされたことがある。「中学生にもなってアニソンなんて聴くなよ」と。  今ならば、「アニソンは番組の顔を担うにあたって、しっかりと作られた優れた楽曲である」と論理的に考え、また蔑視する連中に対してそのように反論もできる。だが当時の筆者は、アニメやオタク趣味に対する偏見や差別意識に対して無力だった。周囲のオタク蔑視の空気に乗せられて、「恥ずかしい」と思っていた。いや、思い込まされていた。  その「恥ずかしい」との思いから逃れるため、偏見や差別意識から逃れるための突破口として、「アニソンではないが、アニソンのテイストが含まれた楽曲」を求めたのである。それが、嬢メタルだった。
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しかし、その嬢メタルも……
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(やまの・しゃりん)漫画家・ジャパメタ評論家。1971年生まれ。『マンガ嫌韓流』(晋遊舎)シリーズが累計100万部突破。ヘビメタマニアとしても有名。最新刊は『ジャパメタの逆襲』(扶桑社新書)

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ジャパメタの逆襲

LOUDNESS、X JAPAN、BABYMETAL、アニメソング……今や世界が熱狂するジャパニーズメタル! !  だが、実はジャパニーズメタルは、長らく洋楽よりも「劣る」ものと見られていた。 本書は、メディアでは語られてこなかった暗黒の時代を振り返る、初のジャパメタ文化論である。★ジャパメタのレジェンド=影山ヒロノブ氏(アニソンシンガー)の特別インタビューを掲載!

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