更新日:2023年03月22日 10:01
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電車内でマウントし合っていた男女の会話は、とんでもない方向に舵を切った――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第45話>

まさかの変化球を投げてきた男

 そのころには二人の会話は訳の分からない高みに達しており、「そもそもローマ帝国では」みたいなステージに移行していた。  そんな中で、男性の方が突如として会話の舵を切ったのだ。 「キミは何フェチ?」  突如、会話が切り替わった。あまりの切り替わりにハッ! となった僕は、ついつい見上げて男性の顔を見てしまった。  すごい目力だった。何か得体のしれない迫力みたいなものがあった。  これは彼なりの変化球だったのだと思う。そう、スライダーだ。延々と訳の分からない話が続いていたが、突如、別角度の話題を放り込むのだ。それをここで平然と放り込めるという意味では、男性の方が一枚上手なのかもしれない。  切れ味の良いスライダーに女性はたじたじだ。 「え、男性のうなじのあたりとか好きかな」  本来なら、ここで訳の分からないことを言わなければならない。それが彼らのルールだ。けれども突如のスライダーにけっこう素で答えてしまったようだ。まあまあ普通のフェチを答えてしまった。  男性も狙い通りにスライダーが決まったと確信したようで、勝ち誇った顔をしていた。そしてトドメとばかりに口を開く。 「俺はグリーンピースフェチだ」  なにそれ!?  あまりのことに完全に混乱してしまった。僕は盗み聞きをしているだけの無関係な人なのに、ついつい「はあ?」って言いそうになった。  それは女性も同じだったようで、完全に「はあ?」みたいな顔をしている。けれども、彼らのマウント合戦においては、それを表明してしまっては敗北を意味する。女性は負けじと深く頷き、日本の指で顎先を抱え込む仕草を見せながら言った。 「なるほどね」  絶対に分かってないだろ。絶対になるほどと思ってないだろ。何が「なるほどね」だ。グリーンピースだぞ、グリーンピース、それのフェチ。
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「グリーンピースは重力場なんだよ」もはや意味不明だった
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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