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かつての高度経済成長の、思い出に浸るのは勝手だ。すべきことを終えた後なら/倉山満

もし、コロナがペストのごとき危険な伝染病なら、東京五輪は即座に中止すべきではないのか?

 文明国の通義は「代表なければ課税なし」である。すなわち、「国民の財産を徴税によって巻き上げたければ、国民の代表である議会の同意を得てからにせよ」との意味である。ところが、安倍内閣の場合は逆だ。官僚が決めた増税を延期したければ、国民の同意を得よ、である。安倍首相はこうした文明に反する行為を「代表なければ課税なし」と誇った。無学文盲無教養にも、ほどがある。  だが、オリンピックの呪いは、まだ続く。  安倍首相は’17年の総選挙、’18年の自民党総裁選、’19年の参議院選挙で、「消費増税10%をやり抜く」と公約し、勝利した。この時の理屈付けでも、東京オリンピックが利用された。すなわち、’19年10月に消費税を10%に上げても、’20年7月に予定されるオリンピックまでは景気が底上げされるので、与党の支持者にバラマキをすれば増税の悪影響は出ない、との「謎理論」がまかり通った。  ところが現実にはコロナ禍が到来して、’20年の東京オリンピックは中止、増税以上の経済的打撃が押し寄せた。コロナがなくとも、日本は慢性的デフレ不況に加え、消費増税による景気の悪化に苦しめられていたのに。  菅義偉首相は、規制改革を政権の一丁目一番地に掲げたが、コロナ禍の収束そして景気回復を成し遂げてからの話だ。仕事には順番と優先順位があるのであって、その二つに対処しない限り菅首相は何もなし得ないと覚悟した方がいい。

森元首相の最大の失言は…

 ここで森元首相の話に戻る。森元首相の最大の失言は、「コロナがどうあろうと、オリンピックは絶対にやる」である。これ、政権と打ち合わせした上での話なのだろうか。  安倍内閣以来のコロナ対策を引き継いだのだから、菅内閣のそれが頓珍漢になるのは仕方がない。「コロナはペストのように危険な伝染病である」との前提に立って、日本経済そのものを止めるような自粛を迫っている。一方で一連の「GoToキャンペーン」を行い、旅行業者や飲食業への支援を打ち出した。ところが、感染者(と称される陽性者)が増えるや、再び緊急事態宣言を行い、人の移動を止め、飲食業を諸悪の根源の如く叩きのめす。支離滅裂だ。  そこへ来て「何が何でもオリンピックをやる」である。もしコロナがペストのごとき伝染病なら、即座に中止すべきではないか。一体、何がしたいのか。  だが、オリンピックを返上したら困る人々がいる。そもそもオリンピックが白人の利権にすぎない現実など、よほどの子供でなければ知っている。そこに群がる日本人も多くいる以上、やめると大損害が出る。そして、自ら返上すると多額の違約金が発生する。  ならば、白人たちが嫌がるような形で追い詰めればいい。現実に、欧米諸国はコロナで数十万人単位の死者が出ている。仮にオリンピックを開催しても、そのような国の選手の入国は認めないと宣告すればいい。白人抜きのオリンピックになれば、欧米諸国が「自分たち抜きでもやってくれ」などと殊勝なことを言うはずがない。  コロナは危険な伝染病だからと大多数の国民に我慢をさせながら、オリンピックは利権だからやめられない。そのような筋が通らない政治とは決別すべきだ。  国民とともに歩め! ※この原稿は2月9日に発売した『週刊SPA!2/16号』に掲載されたものです。
1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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