山田ゴメスの俺の恋を笑うな
走れゴメス(下)
むりむりむりむり〜!
大量の軟便が、なぜか左足だけのズボンの中を雪崩のごとく降りていく。
モコモコモコと上から下に、すごいスピードで盛り上がっていく内股側のズボンの表面は、まるで土の上にできるもぐらの通り跡のようだった。
放心状態の私は、よろよろと階段を上りきって、友人宅のベルを鳴らす。遅かったっすね、と迎え入れる友人に私は開口一番、正直に打ち明ける。
ゴメン! 漏らしちゃった……。
友人は最初、私がなにを言っているのかよく理解できない様子だったが、私の腰から下が放つ強烈な臭気ですべてを察したらしく、眉根を寄せて目を三角にし、右手の親指と人差し指で鼻をつまみながら、精一杯のクレームを搾り出す。
マジっスかぁ〜!? カンベンしてくださいよー!!
ゴメン! 迷惑はかけないから!!
と、左手で手刀をつくり鼻の線に合わせて、頭を下げた。もう充分に迷惑はかけている。
オレ……、なにすればイイんスかぁ?
友人の顔は、思わず同情してしまいたくなるほど今にも泣きそうだ。
とりあえず風呂貸して!
もはや冷静さを取り戻しつつある私は、友人の承諾をも得ないうちに、
うんこがつたらないよう、つま先立ちの蟹歩きでそっと風呂場へと向かう。
浴室に入り、パンツとズボンを一気に脱いで、水圧を目一杯にしたシャワーを浴びせる。
洗い流されたうんこの川が排水溝に落ちてゆく。
次に、尻ときんたまの裏から両足にかけてを隈なく洗い流す。
うんこの川が透明になった頃、友人からもらったゴミ袋にパンツとズボンと靴下を詰め込んだ。
ヨージ・ヤマモトのズボンは惜しかったが、やはり捨てることに決めた。
もちろんこの夜、友人が当初の目的だった”ちょっとした相談事”を私に持ちかける、なんてことはなかった。
いきなり家に上がり込んで風呂場で漏らしたうんこを洗う先輩に、
いったい何を相談すればよいのか?
そう彼が考えるのも無理はない。むしろ自然だと思えた。
現時点、この話が私の耳に入って来ていないところをみると、その友人は私の名誉を考え、口を固く閉ざしてくれているのだろう。もしかすると単に思い出したくないだけかもしれない。
ほんの数年前にしでかした、本当の話である。
ちなみに翌日、友人からパンツとズボンを借りて昼前に玄関を出ると、
階段にチルチルミチルのパンくずみたいなうんこの染みが、点々とこびりついていた。
(完)
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