山田ゴメスの俺の恋を笑うな
続々・注文の多いAV嬢
そのAV嬢がつくってくれた早めの晩ご飯は、とても家庭的で、美味しかった。
トリの唐揚げと水餃子が各30個に冷や奴が2斤。
肉野菜炒めが大皿に、白米がどんぶりに山盛り。それらの豪華な食卓をまたいで、どうぞとビールをコップに注いでくれながら、恋人らしい笑みを浮かべ、彼女はこんな注文をしてくる。
いっぱい食べてね(ハートマーク)
栄養のバランスも悪くない。ただ量感覚があきらかに、おかしい。
さすがに大食いの私も残しそうになる。
美味しくなかった?
と、寂しげな表情で訴えかけてくる彼女。まるで、この世の終わりが近づいているかのような、暗い表情だ。
いやいや、休憩だから。これからはお酒飲みながらゆっくり食べるから。
本来、あまり得意ではないビールを缶酎ハイに変え、私は残ったおかずを、冷や汗を垂らしながら胃袋へと流し込む。
そのAV嬢は、主に水餃子と野菜炒めを申しわけ程度につまみながら、酒のペースをゆるめない。すでに、ちゃぶ台にどかんと置かれたフォアローゼスを、ストレートの手酌でぐいぐいイッている。
観て観て〜! アタシが出てるブイ!!
次の新しい注文だ。私をその気にさせたいのか、少しでも”アタシを知ってもらいたい”のか、単にヒマつぶしなのか、それとも自分の作品が男側にはどう映るのかを確認するAV嬢としての職業意識なのか、意図がよくつかめない。
とは言え、性癖として、本人を目の前に本人が出演するアダルトビデオを鑑賞するという行為は、相当に欲情する。
オナニーしたくなったらしていいからね。
私のリビドーを駆り立てる魅惑の注文。しかし、ここはなんとなく我慢したい。だって、出せばあとのセックスに響くではないか。私は一度射精すると、回復に最低6時間はかかってしまうのだ。
そのAV嬢が3本目の主演作品をビデオデッキに挿入する。
男だったら、たいがい早送りするであろう寸劇の部分も通常再生で、じっくりと観る。すでに2時間が経過しようとしていた。フォアローゼスのボトルは早くも3分の2以上が空になっている。私はもっぱら缶酎ハイで、喉を潤す程度にチビチビと口にするだけだ。
オナニーしてくれないの?
寂しげな表情で彼女が注文を上乗せする。この世の終わりが近づいているかのような表情だ。
もはやザーメンの量を計算しつつ行動する雰囲気ではなくなってきた。しょうがないから、私はそのAV嬢が見守るなか、ズボンとパンツを脱いでオナニーする。
ねえ、コレさあ……せめてなんとかしてくんない?
怒張しきった股間を指さし、私は彼女に会って初めての注文をしてみる。
ゴメちゃんとはプラトニックでいたいから、フェラだけだよ!
と、そのAV嬢は私のイチモツをくわえ、舌を複雑に這わせてくる。挿入しなければプラトニックというモラル観なのか? テレビのモニター上で、彼女本人が二人の男優に姦されている。まもなく私は果ててしまう。
うれしい……アタシのブイでこんなに早くイッてくれて。
口からザーメンをティッシュに吐き出しながら私の早漏をねぎらうと同時に、彼女はベッドに横たわる。添い寝してみると、もう寝息を立てていた。
私はこれからどうすればよいのか?
とりあえず眠ろう。今日はいろんなことが、ありすぎた。
微修正!日本三大美男子
アホでした!
モックンのことを忘れてました!!
猛省を自ら促します!
私が声を大にして主張したい日本三大美男子を
草刈正雄・郷ひろみ・モックン
に修正させていただきます!
整形するならモックンの顔で!!
続・注文の多いAV嬢
オニイサン、私ン付き合ってよ!
牛丼屋から出てすぐ、そのAV嬢からの唐突な注文に、私は思わず胸をときめかせた。
彼女の呂律はすでに怪しく、おまけに早口だったので、「ン」の部分がよく聞き取れなかった。
「と」=つまり、男女の交際をしてください、の意味なのか?
それとも、
「に」=これからどこかに行くのに付き添ってください、の意味なのか?
まあ、おそらく「に」なんだろう……が、いずれにしても悪くない展開であるには違いないので、私は用事を後まわしにして、ほいほい
いいですよ。
と、できうるかぎりの爽やかな笑顔をつくりながら、即答する。
ふたたび彼女を助手席に乗せて、車を走らせる。
で、どこに付き合えばいい?
左手に煙草を挟み、右手でハンドルを操りながら、そうさらり問いかける私は、
我ながらカッコイイ。
お腹すいた〜!
と、そのAV嬢は甘えた声を出す。
やっぱ、「に」のほうですか……早い話が金づるとして、メシに付き合わされるわけだ。でも、それなりに可愛い女性なら充分許される部類の注文ではないか。もちろん私は腹も立てずにOK、と首肯する。
じゃあ、表参道あたりでお店、探そうか?
原宿から遠くない、お洒落なスポット。無難な提案だったと思う。
しかし、彼女が口にした次の注文は、私がまったく予想していないものであった。
やだぁ〜! 私ん家、来て〜!!
え!?
ごはん、つくるからさぁ。
もしかして「と」……ですか? でも、私のことを「オニイサン」と呼ぶ彼女は、おそらくまだ私の名前も知らないはずだ。そんな関係でその注文は、いくらなんでも気が早すぎるのではないか?
ボク、ゴメスってペンネームだから、ゴメちゃんって呼んでくれる?
そのAV嬢の、あまりの性急さに戸惑う私は、とりあえず名前を覚えてもらうことで、おたがいの距離を少しでも縮めようとしている。
いいじゃないか! 向こうから誘ってくれてんだから。
そのときの私は、彼女の尋常じゃない注文に懸念を抱くよりも、一生に一度あるかないかのラッキーな状況に、ただ浮かれていた。とどのつまりが脳天気だったのだ。
そのAV嬢の家は、原宿から車で1時間くらいの所にあった。
一応、東京23区内だが、いわゆる派手な職業に就く面々が好む区ではなかった。
マンションではない、どこにでもありそうなつくりの小ざっぱりとしたアパート。2階の一番奥で、間取りは2K。高額な報酬と引き替えに人前で裸を晒すリスクを背負うAV嬢には、正直不釣り合いな質素さといえる。
部屋は綺麗に片づいている。無駄な物はなにもない。一つの部屋に白いちゃぶ台とテレビが置かれていて、もう一つの部屋にベッドとオーディオコンポ、そしてキッチンには冷蔵庫と洗濯機……独り暮らしをする女性の部屋にしては、あまりに味気なく、かといって男の匂いを感じさせるわけでもない。
ちょっと買い物行ってくるけど、冷蔵庫にある物、勝手に飲んでて。
じゃあお言葉に甘えて、と冷蔵庫を開けて私は思わず目をしばたかせる。食材がまったく入っていないのだ。
家庭用サイズより心もち小さめの冷蔵室の約7割は、缶ビールと缶酎ハイでびっしり占められていて、残り3割はミネラルウォーターにコーラとポカリスエットのペットボトル。そして、冷凍庫にはコンビニで市販されているクラッシュアイスが溢れんばかりに詰まっている。
このコ、なんかヘン……?
でも、コーラ好きの私としては、まだこの時点では、
なんてステキなチョイスなんだ!
と、好意的な解釈しかできないでいたのである。
(つづく)
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