山田ゴメスの俺の恋を笑うな
山田Gの『ぶらり…独り記者会見(仮題)』武井咲の巻
とりあえず、記者会見用のファッションというものを考えてみる。
ドレスコードとかで門前払いを喰らいでもしたらたまらないので、一応自分なりのフォーマルな服装で行くことにした。
受付時間の18時ほぼちょうどに会場のアニヴェルセル豊洲に到着。
ドレスコードはなかった。受付の、どんな人にも不快感を与えない外見の見本のようなお姉さん(おそらくwith編集部の方だと思われる)が、丁寧かつ爽やかに迎えてくれる。
初めてだから痛くしないでね……。
と、心から願うヴァージンとしてはとてもありがたかったが、待ち合いスペースに入ると、いかにも百戦錬磨風の一癖も二癖もありそうな輩たちが我が物顔で、私のような新参者を安易に受け入れないオーラを放ちまくりながら、談笑をしている。
スキンヘッドにレイバンのサングラスの男、緩やかな天パのロン毛をオールバックにした男、ほぼ白くなった口髭をたくわえ眼鏡を額にかける日焼けで真っ黒の50代男、茶色く染めたヘルメットみたいな髪型にピタピタのシャツとスラックスをコーディネートする優男、やたら汗を拭いている小太りの男……、すでに60人以上は集まっているのではないか。
部屋の中には、プレス用の椅子とテーブルが用意されており、空席もパラパラ残っているのだが、どうも座れる雰囲気ではない。
「おう、ひよっこ。取材するのは勝手だが、ちょろちょろ動いて俺らの邪魔すんじゃねえぞ!」
そう目で語りかけているかのようだ。完全なアウェー状態。でも怯んでちゃダメ、とガムを噛む。アクの強い顔立ちのくせにハートが弱い私は、ガムを噛んで不良を装う。こうすれば、ほんの少しだけ気が大きくなるのだ。草野球でもガムを噛んで打席に立つようになって貢献打率が上がり出した。6月14日の時点で.500の好成績である。
記者会見予定時間の10分前、18時20分。今日の仕切り役であるらしいスーツ姿の男性が受付前に立ち、慇懃な態度で記者会見会場への案内を始める。
「大変長らくお待たせ致しました。ただ今からウエディングキャンプ記者会見の会場に、ムービーの方、スチールの方の順で皆様をご案内致します……」
すると、グレーの望遠レンズを装着した一眼レフを3台幼稚園掛けした50代と思われるベテラン風カメラマンから、猛然とクレームが入る。
「ダメだよ! ムービー先入れちゃ。スチールから先入れないと(大きなムービー用の)カメラで前が埋まっちゃうから!! 常識だろ!?」
待ち合いスペース内がしんと静まり緊張感がただよう。仕切り役のスーツの男性は明らかに動揺している。
そこまで高飛車な言い方をしなくても……、
と、私が内心ビクビクしてしまうが、結局その主張は通り、スチール組が先に会見会場に案内されることになる。そして、主張すべきことはちゃんと主張するそういう姿勢こそが、この世界では何より重要であると、私はたった数分後に痛感する。
記者会見会場のエントランスをくぐると、カメラのレンズをクリアーにステージへと向けることができるスペースは、残っていなかった。幼稚園がけ一眼レフ3台のカメラマンはちゃっかり一番前の正面特等席を陣取っていた。生き馬の目を抜く素晴らしいプロ根性だ。
陣地取りに敗れた者たちも、脚立を広げてその上に立ちストロボをカラ光りさせながらスタンバっている。パッと見た限り、ほぼ100%の人がマイ脚立を持参している。当然、私は持っていなかった。準備不足も甚だしい。
会場の左端にある、50cmくらいの高さの室内花壇を囲む石塀の上に乗ってみるが、たちまち
「危ないので、そこの上にはのらないでくださーい!」
と注意されてしまった。
立ち位置を決められないうちにwithモデルが4人、連なって登場する。そしてまもなく今日の主役・武井咲が真っ白なウェディングドレスに身を包み、登場。色めき立つ取材陣。パラパラパラパラとあちらこちらでストロボが絶え間なく光る。人壁に阻まれ、私は被写体にカメラをまったく向けることができない。アフリカか何処かの部族のようにぴょんぴょん跳び上がりながらシャッターを押すが、ブレブレで何が写っているのかさっぱりわからない。波を強引にかきわけて沖にたどり着く、そういうタフなメンタルが絶対不可欠な世界なのだ。
勇気を出して、もう一度石塀の上に乗る。また「そこの上には乗らないでくださーい!」と注意されるが、今度は聞こえないふりをしてシャッターを押しまくる。
カメラ目線の写真を捉えることがなかなかできない。私のカメラはモータードライブ装備がないのでホンの数秒しかないシャッターチャンスをすぐ逃してしまうのだ。やがて、
「エミちゃん、こっちこっち!」
「時計回りに、そうそうそうそう!」
などと、大声を張り上げ挙手をするカメラマンが増えてくる。こうやって被写体の目線をゲットするわけだ。エミって誰なんだ……と、私は素朴な疑問を頭によぎらせるが、どうやら武井咲のことであるらしい。「サキ」ではなく「エミ」と読むようだ。今さらながらびっくりする。
およそ10分で撮影タイムが終了すると、それまで一番後方に控えていた音声部隊が前方へと速やかにせり出し、長いマイクをステージに、にゅっと突き出す。そして、ハンドマイクを持ったレポーターらしき男が数人、武井の両サイドを固めて、インタビューを始める。あらかじめ質問が用意されているのか、彼らの口は滑らかだ。
──(ウェディングドレス姿の)今のお気持ちはいかがですか?
「17歳でウェディングドレスが着れるとは夢にも思いませんでした。イメージより(ドレスが)重たいけど気分はいいですね」
──(ドレスを)着る前と着た後では気分が違いますか?
「結婚式のような気持ちになりました」
──得意料理はなんでしょう?
「あまり料理はしないので得意料理というのはないのですが、これからお母さんに教わりたいと思います」
──仕事での花嫁姿は婚期を遅らせるというジンクスもありますが?
「両親は『着ちゃったのね』というかもしれませんが(笑)、ジンクスを破りたいですね。優しい人と良いタイミングで結婚できたら……」
申し訳ないが、ほんと、どうでもいい質問ばかりである。
回答も、さして気が利いているとも思えない。
こういう受け答えをニュースや記事にしていったい誰が喜ぶのか、よくわからない。
テレビの生出演中、MCから
──なんでテレビはあんまり観ないのか?
と、訊ねられて、
「あんまり、おもしろくない……」
と、答えたSKE48の秦佐和子を見習っていただきたいものだが、レポーターは全員、同様の貼り付いたような笑顔で、武井の回答にまるでうなづき人形のごとく顔面を上下にシェイクさせまくっている。この人たちは、果たしてどのような基準で選ばれているのか、また素朴な疑問が私の頭をよぎる。
いっそのこと、
「週刊SPA!の山田と申しますが、武井さんはSPA!の独自の調査により”お嫁さんにしたい女性ランキングNo1″に選ばれたのですが(嘘)、その理由を自己分析するに、どのようにお考えでしょう?」
とでも質問してみようか、と野心を抱くが、残念ながらフリーの質疑応答タイムはなし。予定の30分間より5分ほど早い19時55分には会見が終了した。
この手の記者会見は、写真こそが肝であり、会見内容に関しては場の空気を乱さないという、(記者会見の)プロフェッショナルならではの暗黙のチームワークが、そこにはあるのかもしれない。あくまで傍観者としてしか参加、いや参加さえできなかった、疎外感に打ちのめされた、初めての記者会見であった。
帰り、会場のとなりにある、ららぽーと豊洲のスーパーに寄ってみた。とても美味そうな霜降りの和牛が安売りしていたので200g購入し、今日の晩ご飯はしゃぶしゃぶにしようか、すき焼きにしようか、悩みながら家路へと急いだ。
(完)
※ちなみに次の日、この記者会見の模様が各スポーツ新聞の芸能欄を賑わせていた。
ブログ内新連載! 山田Gの『ぶらり…独り記者会見(仮題)』プロローグ
29歳でライターとしてデビューをし、もうすぐ20周年を迎える私だが、そんな私がまだ体験したことのない仕事が一つある。
それは、記者会見だ。
べつに選り好んでいたわけではない。ただ単に、これまでその手の仕事が入って来なかっただけなのだ。そして、こんな記者会見ヴァージンの私に、記者会見ルポをさせたらちょっと面白いのではないかとSPA!編集部が企て、実現したのがこのブログ内連載である。
基本的に人に対する好奇心は薄いほうで、とくに面識のない人間に対しては、その傾向が強くなりがちな私としては、記者会見というイベント自体にとりたてての高揚感を抱くわけでもないのだが、基本的に来る仕事は拒まないのが信条でもあるから、もちろんありがたくお受けさせていただきたい。
ということで、初モノとしてはちょうどこれくらいが手頃なのではないかと編集部が見繕ってくれたのが、
武井咲がウエディングドレスで登場するという、コンサバ系女性ファッション誌withが主催する
『ウエディング塾(キャンプ)』
の記者会見だ。
ヴァージンゆえ、当然編集部の誰かが同行してくれるとおもいきや、
「この日はちょっとバタバタしてて……」
と、どうも歯切れが悪い。アンタだけで行ってきてください感がありありだ。扱いの低さに思わずムッとするが、まあしょうがない。
いずれにせよ、このようないきさつで6月22日、私はのっけから独りぼっちの記者会見に臨むハメになったのであった。
ものすごく不安である。
本当に大丈夫なのか?
(つづく)
怒りのペンを取る
とってもいい天気だったので昼、私がよく、ホームレスの人に、
どう?
と声をかけられる公園でカルピスウォーターを飲むことにした。
石塀に座ると、ぬるっとした妙な違和感があったので腰を上げてみれば、
尻の下に噛み終えたガムが捨てられていた。
暑さのせいかそのガムは異様に伸びて、横を歩いていた昼休み中のOLふたりが、
うわっ、可愛そう!
信じられなーい!
なんて眉間にしわを寄せていた。
急いで家に戻り、タワシでゴシゴシしてみても、全然取れない。
コイツはもう、公衆道徳とかマナーの次元を越えた
テロ行為
に匹敵するのではないか!
捨てる所に困ったなら飲み込め!
私はいつも捨てるのが面倒なので飲み込んでいる。
猛省を促したい!!
さらには、政府の強い姿勢を求めたい!
ガム捨て懲役15年!!!
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