山田ゴメスの俺の恋を笑うな
山田Gの『気まぐれ記者〜ぶらり!独り記者会見〜』AKB48・じゃんけん大会の巻
9月20日。記者会見とは若干趣きが違うのかもしれないが、AKB48の『24thシングル選抜じゃんけん大会』を観に、武道館まで行ってきた。
「今年あたりで失速するだろ」といった、ちまたの風評も少なからず聞こえていたAKB48だが、会場の様子を見るかぎり、失速どころか、ますます健在を十二分にアピールする、異常な熱気をはらんだ一大イベントであった。そして、そんな熱気は、武道館程度のキャパに詰め込められたファンから、よりはむしろマスコミの加熱ぶりから、いっそう推し量ることができる。
まずはいきなり、私たち“ペン組”(=取材を行う記者やライターをこう呼ぶらしい。はじめて知った)と“カメラ組”は別々に分けられてしまうことに驚いた。ペン組はマスコミ関係者を集めた一角の席に、カメラ組は撮影専用の長方形のスペースへと案内されるのだ。よくよく考えると、野球やサッカーほかのスポーツ取材も同様のシステムを取っているわけで、現にスポーツ新聞の記者なんかは「当然」といった顔でスタンバっていたのだが、なんせこーいう空気にまったくもって慣れていない私としては、ただドギマギするばかりである。こぢんまりとした隠れ家的カフェくらいの敷地面積に、ざっと数えて100人近くのカメラマンが寿司詰め状態でひしめき合っている。そこからは、いつもの記者会見よろしくの「そこ邪魔だろ!」と、百戦錬磨チックな取材カメラマンからの怒号が聞こえてくる。
うち(SPA!)のカメラマンさんは大丈夫だろうか?
好戦的な取材カメラマンたちの強引さに面を喰らって、隅っこのスペースまで追いやられてはいないだろうか?
つい心配してしまう。
午後6時。開演予定時間ぴったりにじゃんけん大会はスタートした。
大会は、MCのジャストミート福沢が、プロレス中継ながらの絶叫節でファンを煽って、特別ゲストとしてアントニオ猪木が登場し、応援に駆けつけたSKE48の松井玲奈に闘魂注入の女子にはけっこうきつい強さのビンタをかまして、そのあとは、レニー・ハートという女の人の個性的なネーミングコールに合わせてメンバーが二人ずつ壇上に現れ、レフリー役の南海キャンディーズの山ちゃんが対戦相手同士の拳を合わせながら「レディ!」とがなり立てると、ファンから「おーっ!」という掛け声が3度上がって、一拍おいてから山ちゃんがまた「じゃんけんぽん!」とがなり立ててじゃんけんが始まる、といった“試合”がトーナメント順に延々繰り返されるシンプルな流れであって、
結果は、前田敦子だとか大島優子だとか板野友美だとかのいわゆる有名どころが早々と敗退し、我らがSKE48はこの日の決勝大会に進出した5人中、桑原みずきだけがベスト16まで勝ち抜き、SKE初のじゃんけん選抜入りを果たして、決勝戦は3回あいこの末、篠田麻里子が勝利しセンターの座を射止めたわけだが、私の目をよりいっそう釘付けにしたのは、私の前に陣取ってノートパソコンを開きながらライブなタイミングで黙々と原稿を打ち込んでいるペン組の面々であった。
おそらく毎日発売のスポーツ新聞やネット配信ニュースなどの速報性を第一とする媒体の取材記者たちなんだろうが、とにかく仕事が異様に早い。
PCのディスプレイは、違う会社から派遣されてきたはずにもかかわらず、誰も彼もが同じフォーマットだ。縦書きの原稿用紙の枠組みで、1行の文字数は12Wから13W。それがステージ上でなんらかのトピックがあるごとにじわじわと埋まっていく。さらにメンバーが登場するごとに信じられない速度で彼女たちのプロフィールがネットを通じて引き出されてくる。目のいい私はそれを盗み見して大学ノートに書き写す。
雑誌の世界では比較的原稿が早いと言われている私だが、とてもじゃないけど私なんぞに真似できる芸当ではない。自分がものすごく無能な物書きだと思えてくる。
大会が終了してからの、彼らの移動もまことしやか、迅速だった。
15分も経たないうちに、まるでディズニーランドのアトラクションのような長い行列が、取材ブースの前にできていた。選抜メンバーを撮影しようとするカメラ組の列である。
トイレにこもり長めのうんこをして煙草を2本吸って仕事の電話を3本ほどかけ終えたころ、ようやく選抜入りしたメンバーがブース前に現れる。午後10時を過ぎていたので、18歳以下の高校生メンバーは欠席という歯抜けの編成だ。
30人ほどが3列の一組で、代わる代わる5分ほどずつシャッタータイムを与えられるのだが(少なく見積もっても10回転はしていた)、あまりの機械的なベルトコンベア式の段取りにカメラマンたちから明らかな苛立ちが見える。主催側の些細な失態に対しても容赦ない詰問があちこちから飛び交う。仕切り役のレコード会社の広報はずたずたのサンドバッグ状態だ。おのずとカメラアングルも限られてくる。右目線・左目線・中央目線の3つがせいぜいだ。もちろん質疑応答に割かれる時間もない。ならばいっそのことAKB48側の専属カメラマンが撮影して、後からデータを送ってもらえばいいじゃないか、とも思ったが、そういう問題ではないんだろう。そんな余裕もないほど締め切りがひっ迫しているに違いない。その荒ぶった行列の横で、あぐらをかいてノートパソコンと格闘するペン組。すでに最後のまとめに取りかかっているのだろう。
国民的イベントの裏側で、圧倒的な速度を目の当たりにし、推しメンが勝ち進むごとに小さなガッツポーズをつくるだけの単なる控えめなファンの一人の域を超えることができなかった私の心は、ただ折れるばかりであった。
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