世界的シェフも認める“ド素人”の日本人が作った生パスタ
イタリアンと言えばパスタ。家庭では乾燥パスタがおなじみだが、「生パスタ」の独特の歯ごたえを愛している人も多いだろう。今でこそ、レストランなどで見かけることも珍しくなくなった「生パスタ」だが、ほんの10年ほど前までは、まだ日本ではなじみの薄い存在だった。
そんな黎明期である2003年に、いち早く「生パスタの製麺所」を日本で創業した人物が「プリマ・パスタ」の工藤保夫氏だ。それだけでも十分にチャレンジングな話だが、工藤氏自身、それまでイタリアンはおろか食品業界ともレストラン業界ともまるで関係のない「ド素人」だったというから、驚きである。
「昔から、ものづくりの仕事をしたいなと思っていたんです。ちょうど30歳になったときに、受け持っていた事業が撤退する事になったので、人生を賭けるにはよい機会だなと。まだ日本では誰もやっていないことをやろう……と思ったとき、以前イタリアで食べた生パスタのことを思い出したんですよ」
実は当時すでに、日本でも「生パスタ」と称する商品は売られていた。だが、それは「イタリアで食べた生パスタとは別物だった」と工藤氏は言う。
「単に“乾燥させていない乾麺”が、生パスタとして出回っていたんですよね。それらは穴から押し出してつくるものなので、いくら乾燥させていないからと言って、手打ちの生パスタとは味も歯ごたえも違う。正直、おいしいと感じられなかったので、そこにチャンスがあると思ったんです」
工藤氏の話を聞いていると、パスタへの情熱がひしひしと伝わってくるが、ここで再び驚きの発言が。なんと工藤氏、素人であるにもかかわらず、創業にあたって「イタリアで修行」とか「職人からパスタのつくりかたを学ぶ」といったことは一切していないというのである……!
「勢いで製麺機を買ってきて、『これ、どうやったら動くんだろう?』みたいな(笑)。生パスタのつくりかたは、独自に研究していきました。そもそも日本には生パスタの作り方を教えてくれるところもなかったので。あとは、自分の舌の記憶を頼りに配合を試行錯誤して。そのサンプルを持って、有名イタリアンレストランに営業に行ったら、『おいしいうどんだね』と言われてしまい……(苦笑)」
だが、そんな工藤氏の無謀さを面白がってくれたシェフの一人が、「せっかくだから作ってみてよ」と、本場のレシピを伝授してくれたのだという。2~3か月間、何回も店に足をはこび、そのたびに細々としたダメ出しを受けながら完成させた改良品は、今では「プリマパスタ」の主力商品。プロのリクエストに見事に応えてしまう様子は、ただの素人とは思えないが、そこには工藤氏の意外なスキルが関係していた。
「実は昔、原子力の検査の仕事をしていたんです。工場での非破壊検査というものなんですが、その現場は、0.1ミリの誤差を目で測らなきゃいけない……みたいな世界。微差への感覚は、その時代に磨かれたのかも。麺にしても、太さが0.1ミリ変われば、ゆで時間が1分近くも変わって、食感も全然違いますし」
精密機械並みの感性をもって作られた工藤氏のパスタは、「フレンチの神様」と呼ばれる世界的に有名なシェフにも認められ、氏の口コミで香港の店舗でも使用が決まった。それをきっかけに、今では香港を代表する高級ホテルのレストランなどにも採用されている。
一流シェフのオーダーをきめ細かく受けてきたこともあって、星付きの高級イタリアンレストランを中心に400店舗ほどに流通。青山の有名イタリアン「リストランテホンダ」の本多哲也シェフや、料理研究家の服部幸應氏のお取り寄せサイト「服部幸應のお取り寄せ」に名を連ねるなど、著名な料理人からの熱い支持を得たいま、工藤氏が目指すのは、一般家庭のテーブルの制覇だ。
「創業から15年近くたって、日本でもようやく生パスタが浸透してきたこれからが勝負だと思っています。今、開発に力を入れているのが『おいしい低糖質生パスタ』。どう作っているかは秘密ですが、試作では通常の生パスタにも劣らない美味しさを実現させています。昨今の糖質制限ブームはパスタ業界にとっては逆風ですが、それを逆手にとったヒット商品を狙っています!」
「プリマ・パスタ」のパスタは通販も可能。規格外の男が実現した、規格外の美味をご堪能あれ。
・プリマ・パスタ http://www.pastaio.jp/
・リストランテホンダ http://ristorantehonda.jp/
・服部幸應のお取り寄せ http://www.hattoriyose.com/
取材・文/日刊SPA!編集部

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