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風俗嬢は勃たずに落ち込む私に言った「すぐに謝る男の人、あんまり好きじゃない」――爪切男のタクシー×ハンター【第十八話】

 渋谷でメルマガ編集長として働いていた時代に、忘れられないお正月を過ごしたことがある。  元旦の朝、私は職場のソファーで一人目を覚ました。職場で年を越してしまった。仕事を片付ける為ではない。当時同棲していた彼女と些細なことで大喧嘩をしてしまい、家に居にくくなった私は、適当な仕事を作って職場に逃げ込んだのだ。寝ぼけまなこで、携帯の「あけおめメール」をチェックしたところ、彼女からも友人からも何の連絡もなかった。よく利用している眼鏡屋からだけ新年の挨拶が届いていた。  喧嘩の原因は彼女の浮気だった。もとより貞操観念が少し緩い女だったので、浮気は初犯ではない。ただ、私自身も彼女の知らない所で、風俗嬢やテレクラで見つけた女とすぐに恋に落ちるので、彼女のことを悪く言う資格はない。私自身の考えとして、浮気という行為は特に悪いことだと思わない。浮気をしようと思わせてしまった私にも原因はある。それに、こうやって私のもとに戻ってきて、素直に自分の非を認めているのだ。これはこれでもういいんじゃないか。私達の家に帰って来てくれたことが何よりも嬉しい。人を殴った奴も人に殴られた奴も、最悪な奴も最高な奴も、金持ちも貧乏も、男も女もオカマも、みんな自分の家があり、自分の家に帰るのだ。人間は何があっても家に帰らないといけない生き物なのだ。だが、幼少期の私を捨てて家を出て行った母親は帰って来なかった。家に帰って来ない最高の女よりも家に帰って来てくれる最悪な女の方が私は大好きだ。  そんな感じで彼女の何回目かの浮気を許したのだが、彼女は私のあっさりとした態度に激昂してしまった。珍しく目を潤ませて怒っている。どうして彼女が怒っているのか分からない。理由を聞いても彼女はムスっとして何も答えない。年の瀬にブラジル人と浮気した女がムスっとして怒っている。「ブラジル人と浮気した」と聞いた時、私の頭の中はサッカーの王様ペレの顔でいっぱいになり、ペレとセックスをしている彼女を想像すると少し面白かったのでクスッと笑った。  そのうちお互いに何も喋らなくなり、二人の間には気まずい空気だけが流れていた。喧嘩をした時は一緒の空間に居ない方がいい。お互いに一人になって冷静に考えた方がいい。ましてやこんな状態で年を越すのは気分が悪い。そういうわけで私は職場に逃げ込んだ。  徐々に冴えてくる意識の中、私は職場でオナニーをすることにした。一年の計は元旦にあり。姫始めは一月二日にする行事である。そうなると元旦には何をするべきか。それは自慰始めである。新年の始まり、誰をオカズにして抜くかによって、男の今年一年が決まると言っても過言ではない。天照大御神のような女の神様をオカズにして、厳かに抜くのも一興。新年らしく大御所をオカズにするのも良い。大御所といえば美空ひばりやマリリン・モンロー辺りになるか。それもまた一興。もしくは私が愛する小野真弓で今年を始めるか。そもそも自慰始めを職場でしていいのだろうか。そんなことを考えながら、私はまた深い眠りに落ちた。
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元旦出勤をしてきた社長と顔を合わせる
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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