更新日:2022年08月14日 11:47
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テレクラで出会った“大きすぎる女”の手はとても温かかった――爪切男のタクシー×ハンター【第十五話】

 終電がとうにない深夜の街で、サラリーマン・爪切男は日々タクシーをハントしていた。渋谷から自宅までの乗車時間はおよそ30分――さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、密室での刹那のやりとりから学んだことを綴っていきます。 テレクラで出会った“大きすぎる女”の手はとても温かかった――爪切男のタクシー×ハンター【第十五話】「みんな部品の付き方が違ったり、足りない部品があるからいろんな人間がいる」  今日も職場で一人残業。気分転換にベランダから渋谷の夜景を見下ろす。特に何の感情も揺さぶられない街の灯り、行き交う人々の群れ、騒音、罵声、空気の汚れ。掃除の行き届いていない薄汚れたベランダの床にカナブンの死体がいくつも転がっている。  人生で唯一「イジメ」に遭ったのは高校生の時だった。  高校時代の私の顔は、中学時代に患ったひどいニキビの後遺症で鼻が真っ赤っ赤だった。ニキビ自体はほぼ消え去っていて、生き別れの母親から受け継いだ女の子のような色白で艶がある美しい肌を取り戻していたのだが、顔の中心部が赤、その周辺が白という配色が日本の国旗に似ているという理由で、「ジャパン」というあだ名で呼ばれてイジメられた。イジメられながらにして国を背負わないといけないという二つの重圧が私を苦しめた。  皮膚科には通っていたのだが、「成長期に見られる症状なので早期解決は難しい」とのことで医者にも打つ手はなかった。それでも何とか鼻の赤みを取れないものかと、「あらゆるお肌のトラブルを解決!」という怪しい謳い文句で広告されていた商品を買い漁った。蛾の幼虫であるカイコが紡ぐ糸で作られたスポンジ、死海の塩で作られた洗顔料、葉緑体がたくさん入っている植物性化粧水。本当に色々な物を買った。多額の借金を抱えながらも、私に苦労をさせまいと毎月の小遣いを捻出してくれていた親父。そんな親父に悪いなと思いつつも、その小遣いで怪しい商品を買い続ける息子。親子の気持ちはすれ違い続け、息子の鼻は赤いままだった。
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一人で悩みを抱えることが辛くなった
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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