「インポはマイナスじゃない。プラスだ」勃たない男は一日の始まりと終わりにおっぱいを揉んだ――爪切男のタクシー×ハンター【第二十三話】
帰宅後、ドンキで買った衣装を彼女に差し出してお願いする。
「何これ」
「お前にこの服を着てもらいたいんだよ」
「何で?」
「興奮してインポが治るかもしれない」
「白装束を? 着るの?」
「……俺、昔から綺麗な幽霊にムラムラするって言ってたじゃん?」
「……言ってたね」
「……俺の為に幽霊になってくれないか?」
「……」
「……」
「……私のこと好き?」
「……好きだよ」
「……じゃあ、着るよ」
「……愛してる」
「……」
幼少期、母親に捨てられたと思い込んだ私は、祖母以外の女性を憎んで生きてきた。青春時代、生きている人間の女よりも女の幽霊の方が好きだと言えるまでに私の心はすさんでしまった。そして今、私の目の前に、自分の為に幽霊になってくれる女がいる。
私はもう女無しでは生きられない。それでいい。
文/爪 切男 ’79年生まれ。会社員。ブログ「小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい」が人気。犬が好き。 https://twitter.com/tsumekiriman
イラスト/ポテチ光秀 ’85年生まれ。漫画家。「オモコロ」で「有刺鉄線ミカワ」など連載中。鳥が好き。 https://twitter.com/pote_mitsu
※さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、その密室での刹那のやりとりから学んだことを綴ってきた当連載『タクシー×ハンター』がついに書籍化。タクシー運転手とのエピソードを大幅にカットし、“新宿で唾を売る女”アスカとの同棲生活を軸にひとつの物語として再構築した青春私小説『死にたい夜にかぎって』が好評発売中
『死にたい夜にかぎって』 もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー! |
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