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丸山ゴンザレスが語る、フィリピンの麻薬戦争とスラム街の人々「雑貨を売る、麻薬を売る、それが日常」

丸山ゴンザレス-03

スラムの貧しい人々は日々の生活に精一杯

 今回の映画は、実際のスラム街で撮影されたものだという。ゴンザレス氏はフィリピンのスラム街で危ない目にあったことはあるのか。 「まったくないです。じつは、スラム街といっても基本的には危なくないんです。普通の家族が住んでいる“コミュニティ”なので。それが機能している昼間は大丈夫。ただ、スラム街にも入れないような連中がいて。そいつらが夜やひと気のないときにスラム街まで仕事をしにくるので犯罪率が高い。そこに住んでいる人たちは、意外と普通ですよ。とはいえ、外国人がフラフラとやってきて、ポケットを財布でパンパンにして歩いていたら、なにかしら犯罪に巻き込まれる可能性がありますけど(笑)」  また、ローサの経営するサリサリストアではアイス(覚せい剤、SHABU)と呼ばれる麻薬が売られており、人々との深い結びつきもうかがえる。それほど簡単に手に入ってしまうものなのか。 「そうですね。ある中毒者の話によると、人が集まる場所でだれかに声を掛ければ、簡単に手に入るらしい。ただ、不純物が多かったりリスクも高いみたいですが。今回の映画ではサリサリストアの店自体に麻薬の在庫がありましたけど、仲介してマージンを抜いて、売人につなぐ、というパターンも多いです」  ドゥテルテ大統領は、麻薬関係者に対する厳しい取り締まりや容疑者の殺害も辞さない姿勢だ。にも関わらず、国民からの支持率は7〜8割とも言われている。 「スラム街の人たちや貧困層、刑務所に収監されている人などにドゥテルテ大統領のことを聞いてまわったが、だれも具体的なイメージはできていない様子だった。厳しい麻薬取り締まりにかんしても、ドゥテルテの発言こそ知っていても、まるで雲の上の存在。彼らにとっては、ドゥテルテではなく、むしろ警察との戦いなんです。だから、政治が自分たちの生活に影響を与えているという認識がない。『“悪いことを取り締まる”と言っているからドゥテルテはいい人でしょ』ぐらい。みんな日々の生活で精一杯なので、政治のことまで考えている余裕なんてないんです」  映画では、一般市民が貧困から麻薬密売に手を出し、警察から命を狙われるという麻薬戦争の実態が浮かびあがる。雑貨を売る。麻薬を売る。それが日常。そこからフィリピンという国の今が見えてくるかもしれない。 <取材・撮影・文/藤井敦年>
明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスとして様々な雑誌や書籍・ムック・Webメディアで経験を積み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi
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●映画『ローサは密告された』
監督:ブリランテ・メンドーサ
出演:ジャクリン・ホセ、フリオ・ディアス、フェリックス・ロコ、アンディ・アイゲンマン、ジョマリ・アンヘレス、イナ・トゥアソン、クリストファ・キング、メルセデス・カブラル、マリア・イサベル・ロペス ほか
http://www.bitters.co.jp/rosa

2017年7月29日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか、全国順次ロードショー!

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