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男子高校生の性転換手術を追った映画『女になる』を女装小説家はどう観たか?

 LGBTに関する議論が世間を賑わせている昨今。性同一障害の高校生が、性別適合手術を受けるまでを追ったドキュメンタリー映画『女になる』が新宿K’s cinemaにて公開中だ。「日刊SPA!」にて女装をテーマにしたエッセイを連載中の小説家・仙田学さんはこの映画をどう観たのでしょうか? ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
写真おんなになるメイン

『女になる』(C)風楽創作事務所

「人を殺したのかと思った」  なかなか切りだせずに2時間も泣いているわが子を前に、お母さんの脳裏にはそんな考えがよぎったという。男子高校生だった未悠さんが、女の子として生きていきたいとカミングアウトしたときのことだ。

愛おしい人の顔がいくつも浮かんできた

 『女になる』(田中幸夫監督)は、未悠さんが性別適合手術を受けて、「女になる」までの過程を描いたドキュメンタリー映画だ。  観ているあいだじゅう甘酸っぱい感情で胸がいっぱいになり、終わった後には、これまでに出会ったことのある愛おしい人の顔がいくつも浮かんできた。  なぜそう感じたかというと、この映画の主人公があくまでも未悠さんであり、「性同一性障害」・「LGBT」・「性別適合手術」ではないからだ。  そのようなわかりやすいレッテルは最初から剥ぎ取られたうえで、ひたすら浮き彫りにされていくのは一個人としての「中川未悠」に他ならない。その未悠さんの姿が、「さん」付けで呼ばずにはいられないほど身近で、魅力的な存在として描かれていく。  そもそも、物心ついたときから男性としての身体に違和感を抱いてきたことは、自ら望んだ状況ではない。でもその状況に向きあって、手術を受けることを選んだのは未悠さんだ。  未悠さんにそう決断させたのは、ひとを愛したいという強い衝動ではないだろうか。
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「いざセックスするとなると離れていく」
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『女になる』
監督/田中幸夫
出演/未悠、みむ、Naoほか
配給/オリオフィルムズ 新宿K’s cinemaにて単館公開中
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