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映画『エイリアン』のデザイナーがジャケを手掛けた邦楽アーティストと「オタクメタル」の共通点

日本で人気のサブ・ジャンル、メロディック・スピード・メタル(“メロスピ”)

 ジャーマン・メタルが勃興すると、チェコ出身のKREYSON、ブラジル出身のVIPERとANGRA、オランダ出身のELEGYなど、ドイツ以外の国からも近しい音楽性を持つバンドが登場した。  さらにフィンランド出身のStratovariusをはじめとする北欧メタル・ムーヴメントも勃発。デンマーク出身のROYAL HUNT、スウェーデン出身のFortune &CLOC’ K WISE、ちょっと遅れてHAMMERFALL、ノルウェー出身のConceptionなどが登場。北欧出身バンドはネオ・クラシカル路線のバンドが多い。

「某ジャーマン激推しの音楽評論家」に乗せられて買い集めたドイツ産以外のメロディックメタルのCD(筆者撮影)

 そういえば、メロスピ・ネオクラ系のギタリストには、なぜかデブが多い。というか、最初は普通の体型だったのに、デブ化していく現象が見られる(イングヴェイやティモ・トルキ、マイケル・ロメオなど)。そのことからも、この音楽ジャンルはオタクの“萌え豚”とリンクしやすく、オタク臭を強化していると言えるだろう。ちなみに「萌え豚」とは、2ちゃんねるで生まれたネットスラングで、萌え系のアニメやマンガなどの熱狂的ファンを指す。  90年代半ばには、イタリアからLABYRINTHが登場し、後にRhapsody(現:Rhapsody OF Fire)を筆頭にイタリアン・メタルは大きな勢力となる。  このように欧州から続々とメロディとスピードが同居したバンドが登場し、これらはメロディックスピードメタル(“メロスピ”)と呼ばれるようになる。さらにSONATA ARCTICA、Dragon Forceなどのバンドも登場し、メロスピは現在に至るまで人気サブ・ジャンルとして支持されている。  だがその一方で、メロディがクサいことで、「鼻が曲がる」とか、「オタク臭い」とか、さんざんな評価を受けることも少なくない。

アニオタとの親和性が高い“シンフォブラ”

 欧州からメロスピ・バンドが続々と登場していた頃、シンフォニックメタルも勃興した。オーケストラを大きく取り入れた音楽性がシンフォニーを想起させることから、このように呼ばれる。  スウェーデン出身のTherionが、メロディックデスメタル(“メロデス”)から、オペラやゴシックを取り入れたシンフォニックメタル・バンドへ転身。またフィンランドからもオペラティックなヴォーカル・スタイルのターヤ・トゥルネン擁するNightwishが登場し、シンフォニックメタルは1997年頃を起点に、大きなムーヴメントが形成された。  シンフォニックメタルは、デス/ブラックメタルからの影響が強い。デス/ブラックメタルのさらに細分化されたサブ・ジャンルに、シンフォニックブラックメタル(“シンフォブラ”)が存在する。  英国出身のCRADLE OR FILTHはシンフォニックメタル勃興年の1997年以前からすでに名をあげていた。日本デビューの2ndアルバム『DUSK & HER EMBRACE』(1996年)は、シンフォブラの名盤だ。  またブラックメタルの代表格バンドであるノルウェー出身のEMPERORは、1994年に1stアルバム『In The Nightside Eclipse』(邦題:『闇の皇帝』)をリリースしていた。同作と2ndアルバム『Anthems to the Welkin at Dusk』(邦題:『闇の讃美歌』、1997年)は、シンフォブラを代表するアルバムだ。

筆者所有のシンフォニックブラックメタルCD(筆者撮影)

 フィンランドのChildren Of Bodomは、1998年に1stアルバム『Something Wild』にてデビュー。フランス出身のANOREXIA NERVOSAは、2000年に衝撃的な2ndアルバム『Drudenhaus』(日本未発売)をリリース。DIMMU BORGIRは、2001年に5thアルバム『Puritanical Euphoric Misanthropia』(邦題:『魔界大憲章』)で日本デビューを果たした。  シンフォブラは日本で人気があり、またアニオタとの親和性が高いように思う。美しいメロディやオーケストラなどによって過剰に装飾された楽曲は、ブラックメタルでありながらも、まるで映画のサウンドトラックのように聴こえるのである。荘厳、壮大、重厚な世界観で暴走するシンフォブラの世界観は、誰もが圧倒されるだろう。筆者は当時、ずいぶんハマった。  思い返すと、90年代のヘヴィメタル・シーンは、実は熱かったことを思い知らされる。筆者は、90年代のヘヴィメタルは暗黒期と捉えていた(実際、メタル・アルバムのカタログ本も80年代を中心に読んでしまう)。だがこの時期に、現在に至る多くの人気サブ・ジャンルを生んでいたわけだ。
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