更新日:2022年12月17日 22:30
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森友問題は財務省増税派の安倍おろし? 「パンとサーカス」こそ民主主義の要諦

国内の権力闘争を勝ち抜く強い指導者こそ必要

 その意味で3月19日に開催された、森友問題に関する参議院予算委員会の集中審議では、注目すべきやり取りがあった。  自民党の和田政宗参院議員が、財務省の太田充理財局長に対して「まさかとは思うが」と前置きしたうえで、太田氏が旧民主党政権時代に野田佳彦前首相の秘書官を務めていたことを指摘し、「増税派だからアベノミクスを潰すために安倍晋三政権をおとしめるため、意図的に変な答弁してるのでないか」と追及したのだ。    安倍政権が二度にわたって消費税増税を延期したため、財務省増税派から嫌われているのは有名な話で、和田議員は「森友問題は財務省増税派による安倍おろしではないのか」と、正面から切り込んだのだ。マスコミから叩かれることを承知の上だろうが、国民からすれば実に分かりやすい質問だ。  この質問に対して太田理財局長は身を震わせながら、「私は公務員としてお仕えした方に一生懸命お仕えするのが仕事なんで、それをやられると、さすがにいくらなんでもそんなつもりは全くありません」と反論したが、その狼狽ぶりは尋常ではなかった。  和田議員は、もう一つ重要な質問をした。  財務省は「森友学園」への国有地売却に絡む決裁文書「改竄」問題で、官邸や自民党に対して「いくら調べても改竄はありません」などと虚偽の報告を続けてきた。  ところが3月2日、朝日新聞が決裁文書「改竄」疑惑を報じた。  この朝日新聞の報道を受けて、国交省航空局は財務省から受け取った「改竄」前の決裁文書と、財務省が国会に開示した「改竄」後の決裁文書を比較した。そして5日午前10時ごろ、田端浩国交審議官が官邸の杉田和博副長官に電話し、「国交省で保管している文書が書き換え前のものである可能性がある」と報告したのだ。  直ちに杉田官房副長官は、財務省の矢野康治官房長に徹底調査を指示したのだが、矢野官房長はその指示を理財局幹部に連絡しただけで、麻生財務大臣や福田淳一事務次官には報告しなかったと、一部マスコミが報じた。  そこで「5日の時点で矢野官房長から報告がなかったのは事実か」と和田議員が麻生大臣にただしたところ、麻生大臣は「5日の日に(報告は)上がってきていない」と認めた。官房長にここまでコケにされた麻生大臣も内心は激怒しているのではないか。  とにかく国会対策の指令塔である矢野官房長官が3月5日の時点で直ちに麻生大臣に報告していれば、今回の「改竄」問題で安倍政権の対応がこれほど後手に回ることもなかったはずだ。  実はこの矢野官房長は「財政健全化」に熱心で、太田理財局長と同じく消費税増税派だと言われている。こうなると、「森友問題は財務省増税派による安倍おろし」だと疑われても仕方があるまい。  この財務省増税派に同調するかのように、野党だけでなく自民党の一部までが「安倍おろし」を始めた。 「北朝鮮有事の危機が迫っているこの時期に、安倍おろしに動くとは何事か」と批判する人もいるが、こうした権力闘争の勃発はむしろ歓迎すべきだ。マスコミは新たな政治ネタができて大喜びだろうし、政治に関する国民の関心も更に高まることになる。  何よりも国内での権力闘争を勝ち抜くことができないような政治家が、半島有事に対応できるとも思えない。終身独裁を決定した中国の習近平国家主席や、「アメリカ第一」を唱えるトランプ大統領と張り合えるはずもない。逆境で鍛えられた政治家が次々と生まれなければ、日本は三流国家へと没落するだけだ。  政治は権力闘争、戦いなのだ。「安倍おろし」に動くマスコミ、野党、与党自民党の一部、そして財務省増税派などを敵に廻して、安倍政権が果たして景気回復に向けた新機軸を打ち出せるのか、今後の景気回復、若者の雇用、そして半島有事に関わる権力闘争に注目したい。 【江崎道朗】 1962年、東京都生まれ。評論家。九州大学文学部哲学科を卒業後、月刊誌編集長、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、外交・安全保障の政策提案に取り組む。著書に『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(PHP新書)、『アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄』(祥伝社)、『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』(青林堂)など
(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

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