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引きこもり中年を無理やり部屋から出したら…施設送りにされた30代の現実

 内閣府の発表では、40~64歳の引きこもりは61万人。これを受けて政府も引きこもり支援を表明するも時すでに遅し。負け組と世間から見放されてしまった引きこもり中年の存在は、とっくに社会問題化している。特に’19年は川崎通り魔事件や京アニ放火殺人事件など、引きこもり中年による凶悪事件が次々と発生。さらには、農林水産省の元事務次官が引きこもりの長男を刺殺する事件も起きている。もちろん、引きこもり中年だからといって全員がトラブルを起こすわけではないのだが……
[令和版]負け組の衝撃

かつて引き出し屋に施設送りにされた里井邦明さん(仮名・38歳)

社会から「負け組」にされた引きこもり中年

「事件が起きるたびに、“引きこもり=犯罪者予備軍”という論調の報道が増え、社会から偏見の目で見られることを家族の方は恐れています」  そう話すのは、支援団体の代表を務める藤原宏美氏だ。 「そんな家族の不安に応えるかのように、近年では引きこもり中年をサポートする自立支援寮などが増えています」  だが一方で強引に家から連れ出して施設に収容させる“引き出し屋”の存在が問題になっている。 「以前は親の承諾だけで本人を無理やり連れていく団体があったが、今は複数で何日も説得し続けるやり方にシフトしています。ただ、施設側は本人の同意を得たと主張しますが、実際には根負けして諦めただけ。訴訟に発展するトラブルも多く、支援組織の中からも反発の声が上がっています」  引き出し屋の場合、法外な料金を請求されることも珍しくなく、「引き出し料+寮費3か月分=600万円」といったケースもある。 「家族の弱みにつけこんだ法外な金額と、自由に退所もできないような人権を無視した形態の中で、自立への足がかりとなる人も少なくないのが現状でしょう」  かつて引き出し屋に施設送りにされた里井邦明さん(仮名・38歳)もこの一件で両親との溝が深まり、今は厄介払いされる形でアパートに引きこもっている。 「外出禁止などの軟禁状態の中、就労研修として工場で働かされて3か月がたったら実家に帰されました。私には従うしか選択肢がなく、毎日が苦痛。施設の職員や両親にも恨みしかなかったです」  両親が定期的に届けてくれる日用品の中に、求人誌も入っている。「見てはいるが、やる気はない」と里井さんはいう。 [令和版]負け組の衝撃 だが、それでもこうした引き出し屋に頼む親は後を絶たないと藤原氏は話す。 「8050問題もあり、親はワラにもすがる思いなんです。だからこそ国が本気で対策に取り組まなければ、路頭に迷う引きこもりが増えることになってしまいます」  もはや待ったなしの状況だ。  それでも「親の資産の限界もわかるが、まだ社会復帰できる気はしません」と話す里井さん。タイムリミットは近いのだが――。 【引きこもり支援組織代表・藤原宏美氏】 ニートや引きこもりの訪問支援を行うトカネット代表。彼らが互いを語り合えるイベント「希望の会」も主宰。著書に『独身・無職者のリアル』(扶桑社刊)など <取材・文/週刊SPA!編集部>
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