中国の若者の常識不足が問題化「漢字が書けない」「孫文は台湾人」
舞台上の講師が、身振り手振りを交え中国語と英語のフレーズを交互に繰り返すと、集まった数千人の聴衆も続いて復唱する。共産主義のアジテーションを彷彿とさせる光景だが、これはかつて全国に1000万人以上の生徒が在籍したという英会話教室「クレイジー・イングリッシュ」の様子だ。北京五輪前後まで、全国各地の公園や広場で繰り広げられていた光景だ。
ところが今、中国で“英語不要論”が高まりつつある。
『南方都市報』によると、’16年の全国大学統一入試「高考」では、英語の配点比重が引き下げられ、逆に国語(中国語)が引き上げられる見込みだという。漢字が書けないなど、若年層の国語力不足が社会問題化しているのが理由だ。
さらに今年5月には、中国教育学会の会長が、’17年の高考の受験科目から、英語を除外する用意があると発言。ネット上の世論調査でも、回答者の約55%が英語除外に賛意を表している。
若者の国語力不足について、広東省東莞市のメーカー勤務・高島功夫さん(仮名・37歳)もこう証言する。
「20代の従業員の研修ノートを見ると、漢字よりも多くのアルファベットで書かれていた。英語かと思ったら、知らない漢字をピン音(アルファベット発音記号)で書いていた。臥薪嘗胆や羊頭狗肉といった中国語由来の四字熟語も若いコには伝わらない」
危機に瀕しているのは国語教育だけではない。広東省仏山市で貿易業を営む林田岳男さん(仮名・49歳)は話す。
「大学生の男のコが、孫文のことを台湾の政治家だと思っていたのに驚いたことがある。確かに中華民国の建国の父ではありますが、彼は国民党がもともと大陸にいたことや、その後の国共内戦についても知らない。また、『ウイグルって中国だったの?』と言い出し、その場を凍りつかせたキャバ嬢もいた。別に政府批判の意図はなく『顔がどう見ても外国人だから外国だ』と。逆にモンゴル共和国までも中国だと思っているコもいるし、北京や上海の位置関係を理解していないコも普通にいる」
こうした若者の常識不足の一因とされているのが、今までの英語偏重教育だという。中国在住のフリーライター・吉井透氏は話す。
「改革開放後、英語を勉強して外資系企業に入社することが成功への近道とされてきた。今世紀に入ってから、中国では他の科目の授業を削って英語の時間を拡充したことで、国語や社会科の学力が低下したといわれている。しかし今や中国企業も外資以上に条件のいいポストが存在する。また、中国全体が内需主導に舵を切るなか、外国語の重要性が低下。大学の外国語学部の倍率も低下している」
一方、脱英語偏重のなか、一部では“愛語心”が高まっている。トラブル孫悟空でお馴染み、ジャーナリストの周来友氏は話す。
「これまで中国人はビジネスシーンで相手が外国人だと、下手な英語で応じていた。しかし、最近は『中国に来たならお前らが中国語しゃべろ!』という態度の人が多くなってきている。政府やメディアも最近、『中国語は話者数世界一で国連公用語、外国人学習者も増加中』と中国語愛を煽っています」
まさか言語の世界でも覇権を狙っているというのか!? <取材・文/奥窪優木>
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1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売
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