一般市民が警察の盗聴の対象に!? 「盗聴法」改正の恐怖
安倍政権が今国会で何としても成立させようと躍起になっている安保法案が批判を浴びている。実はその陰で、多くの重要法案がこっそり進められていた!
◆一般市民が警察の盗聴の対象に!?<盗聴法>
5月19日、「刑事法制改革法案」が衆議院で審議入りし、8月9日には本会議で可決し、参議院での審議に移った。この法案は実は、「刑事訴訟法」や「刑法」「組織犯罪処罰法」など数本の法律を一本化して改正するものだ。だが、このなかに「通信傍受法」、いわゆる「盗聴法」が含まれているのを多くの人は知らないはずだ。
’99年に成立した盗聴法はその名の通り、誰かの会話を合法的に盗聴することを認める法律だ。だが、従来の盗聴法は警察には極めて使いにくいものだった。
まず、盗聴してもいいとされる犯罪は「薬物犯罪」「銃器犯罪」「集団密航」「組織的殺人」の4つだけ。どう見ても、プロの反社会組織の犯罪に限られているが、それら犯罪組織への盗聴には、まず裁判所で令状を取り、全国どこの警察も、携帯電話会社などの東京本社に出向き、社員の立ち会いでの盗聴が条件とされたのだ。5日間なら5日間、捜査員は、盗聴の相手がしかるべき会話をするのをただ聞きながらじっと待っている。
「こうした厳しい条件をつけたのは当時の公明党です。実際、運用実績はこの2年間で数十件にすぎません。だが、公明党は今回は歯止めをかけようとしないようです」
こう語るのは、盗聴法に警鐘を鳴らす山下幸夫弁護士だ。改正法案の怖さを次のように説明する。
「改正法案では、北海道でも沖縄でも、各地の警察は上京の必要はなく、警視庁や道府県警にいながらして、指定した数日分の通話を録音した圧縮データを通信会社から送ってもらい、立会人なしで盗聴できるんです(捜査令状は必要)。つまり、捜査員が何を盗聴したかの『証人』がいなくなる。警察はやりたい放題になりますね」
さらに改正案では、上記4犯罪に、殺人、傷害、放火、爆発物使用、誘拐、監禁、窃盗、詐欺、児童ポルノなどが追加される予定だ。山下弁護士は、おそらく数百件に増えることもあり得ると予測している。つまり現法では、対象はあくまでも暴力団など反社会組織に限定されているが、改正法案では、それを一般市民にも広げようとしているのだ。
「今の時代の特異性は、国民が一人一台携帯電話やスマホをもっていることです。固定電話なら、盗聴しても話し手が誰かの特定が難しいですが、スマホは特定できる。もし改正案が施行されれば、国が狙うのは、おそらく、国会前でデモをしている若者や、反原発を訴える市民や労働組合です。国会前でなくても、今、デモは一般市民にも近い存在になっていて、安倍政権への脅威にもなっている。
デモの主催者には連絡先の携帯電話番号を公開する人もいるので、真っ先に狙われ、ちょっとでも怪しい会話があれば、即連行が可能です。ただし、現法でも暴力団を何十件と盗聴してきましたが、実は逮捕はしても裁判で争ったことはないんです。つまり改正法案でも、実際に逮捕して裁判をして投獄するというよりも、警察が連行することで市民を威嚇して黙らせることに目的があるのだと思います」(山下弁護士)
取材・文・撮影/樫田秀樹 志葉 玲
― 安保議論の陰でこっそり進む重要法案 ―
この特集の前回記事
【関連キーワードから記事を探す】
軍オタの“おねだり”に手を焼く自衛隊員たち。備品や私物まで勝手にお持ち帰り!?
一般市民が警察の盗聴の対象に!? 「盗聴法」改正の恐怖
マイナンバーで個人のカネの流れや医療情報が丸裸に!?
他人の手紙を勝手に見たら懲役!ではケータイのメールは?
<漫画>中古PCで個人情報が流出するのは本当か? サルベージしてみた
Facebookの最新アップデートは要チェック。意外な個人情報まで筒抜け!?
「月13万円で自宅に1ヶ月間監視カメラ設置」という異例の社会実験。情報の買い手と売り手を直撃
あなたのWi-Fi、タダ乗りされてない?銀行口座から写真まで丸見えのリスクが
Google、Facebookを倒せ! 新興プラットフォーマーに降りかかる難問と課題
完成確率は20%? 陥没事故発生で遠のく外環道完成
関電幹部が「原発マネー」3億円をもらって、“被害者ヅラ”する裏側
「名護市長選の自民候補勝利の裏に公共事業バラマキが…」古賀茂明氏
前川喜平・前文科事務次官が証言「加計学園獣医学部新設は、素人が説明・評価して進められた」
石破茂氏の発言で懸念広がる加計学園の「バイオハザード問題」
日本政府のコロナ対策を風刺し続けてきたマンガ家が見る「日本のコロナ禍」
許すな、「認諾」による「森友問題」赤木さん自殺の真相隠蔽<弁護士 弘中惇一郎氏>
安倍政権から始まったデータ改ざんの深刻度<弁護士・明石順平>
「緊急事態条項」が必要だという嘘と勘違い<法学者・小林節氏>
またしても無意味な政府の新型コロナ対策。「内閣官房モニタリング調査」が使い物にならないワケ
盗聴されやすい人、盗聴されやすい場所の特徴は?
2010年問題のその後を検証――製薬業界の一斉特許切れ、IPアドレス枯渇、アメリカ政府の標準暗号移行
ASKA独占インタビュー「未発表曲を公開されたのは数十年間で今回が初めて」
ガールズコレクションおじさんの悲劇――鈴木涼美「おじさんメモリアル」
一般市民が警察の盗聴の対象に!? 「盗聴法」改正の恐怖
世界195か国の憲法を研究して知った「世界の変わった憲法」7選
「受けます。僕しかできないでしょ」 石丸伸二氏が明かした次の可能性
安倍晋三氏が残したもの。“優しく繊細”か“冷徹で強権的”か/山口真由
刑務所でも高齢化が問題に。受刑者が高齢受刑者の介護をすることも…
10万円一律給付「もらう必要のない人たち」の声を聞いてみた