山田ゴメスの俺の恋を笑うな
犬に蹴り
代官山あたりにある、ペットOKのカフェで原稿を書いていた。
すると、飼い主の足元にいた一匹のダックスフンドらしき犬が、私のほうに近づいてきて、
私のすねに噛みついた。
痛っ!
と、思わず私は軽く叫び声をあげ、反射的に、その犬に蹴りを入れた。
振り幅が20cmほどしかない小さな蹴りではあったものの、足の甲がモノの見事に犬の腹を直撃する、じつに無駄のない効果的な蹴りだった。
もし、犬がサッカーボールだったら、さぞかし綺麗なパスが通っていたことであろう。
その犬は、ギャウンギャウンと見苦しく吼えながら、床を転げ回っている。
いっせいに店内の視線が私のほうに集まるのを感じた。
ワンちゃん、かわいそう……。
信じられなーい!
そんな私への非難の声が、あちこちから漏れ聞こえてくる。
さらには事もあろうに、飼い主の女性がその現場に走り寄ってきて、犬の頭をよしよしと撫でつけながら、私の目をキッとにらんでくるのだ。
ものすごく腹が立った。
私はこの犬にすねを噛まれたのだ。まぎれもない被害者なのである。
まいったなあ、もお……どーすりゃいいんですか、このワンちゃん?
と、ひきつった笑顔をつくり、噛まれるすねをぷらぷらとでもさせときゃいいのか?
こう言っちゃなんだが、私は自分のことを、かなりリベラルな人間だと思っている。
犬はあくまで犬であって、犬以上でも犬以下でもない。
とくに可愛いとも感じないが、とくに憎々しいとも思わない。ペットOKの店ならば、いたところで別に気にかけることもない。
だが、自分に向かって攻撃をしかけてきたならば、話は違ってくる。
反撃するのが当然ではないか!
自慢のワンちゃんを公衆の面前にさらすのは勝手だが、その公衆からの迫害を避けたいのなら、最低限の迷惑をかけないよう注意を払うのが飼い主のつとめではないのか?
もし、人間の赤ちゃんがナイフ片手によちよち歩きで私に近づいてきて、不意に私を刺そうとしてきたら、やはり私は迷わずその赤ちゃんに蹴りを入れるだろう。
赤ちゃんにナイフを持たせ、野放しにするような教育しかしていない親が悪いのである。
なにがワンちゃんだぁ? 犬だろ犬!
ワンちゃんという称号を許されるのは、今でも王選手だけなのだ!
とはいえ、ゴメスさんは、キッとにらんできた飼い主には、
ビシッと文句を言えなかっただろうと思います。
そんなゴメスさんが好きです。
私も。そんなゴメスさんがゾウさんより大好きです!
私もです!
はい。そのとおりです。にらみ返すのが精一杯でした。ちなみに、あんまり可愛くありませんでした。(ゴ)