山田ゴメスの俺の恋を笑うな
注文の多いAV嬢
あれは私がライターとして、デビューまもない頃だった。
ある男性用総合情報誌で、AV嬢をモデルに使う仕事が、はじめて私に回ってきた。
カメラマンの車と私の車にスタッフとモデルが分乗し、千葉あたりの海岸で、手ブラ(=手・ブラジャー)女子のセミヌードを撮影する、たしかそんな感じの仕事であった、と記憶する。
カラみがあるわけでもない、AV嬢を起用するわりには明らかにヌルいの部類に入る現場だったのではなかろうか。
AV嬢からすれば、
たったこれだけでお金もらえんだー
などと内心ほくそ笑む、ラッキーの部類に入る現場だったに違いない。
なのに、そのAV嬢は、やたらと注文が多かった。
正確に言えば、注文の内容は一種類だけだったのだが、その回数があまりに頻繁すぎたのだ。
ビール買ってきてー!
最初、景気づけの一本なのかと思った私は、一本だけを海岸沿いにあるコンビニまで、車を飛ばして買ってきた。
ビール買ってきてー!
買ってきた一本をあっという間に飲み干した、そのAV嬢の同じ注文は、さっきよりちょっと甘え声だった。
景気づけには二本必要なのかと思い、ふたたび海岸沿いにあるコンビニまで、車を飛ばして買いに行く。
どうせなら五本くらい買っていくか、とも考えたが、クーラーボックスがないので、あと景気づけならコレで充分だろうと考え直し、また一本だけ買って、現場に戻る。
ビール買ってきてー!
買ってきたもう一本をあっという間に飲み干し、そのAV嬢は同じ注文を、くり返す。
スタッフのあいだに不穏な空気が流れ出す。露骨な怒りの表情をあらわにする者も、なかにはいた。
とは言え、ここで機嫌を損ねられ撮影を飛ばしてしまうのも、それはそれで面倒なので、
ここは我慢すべきではないか、と判断した私は、みたび海岸沿いにあるコンビニへと向かう。
今度は念のため、五本のロング缶を買い物かごに入れ、1万円札とともにレジに差し出し、お釣りと領収書をもらう。
またたく間に五本目の栓をプシッと開ける彼女を見ながら、
撮影前にそんなに飲んで大丈夫なのか、
と単純に私は心配する。
だが驚くべきことに、そのAV嬢は飲めば飲むほどしゃきんとなり、メリハリ良く肢体をくねらせ、肌を仄かなピンクに染めて、目つきに尋常じゃない妖艶さが宿るのだ。
そこからの撮影は、とんとん拍子に進み、午後一番には滞りなく終了する。
帰り、ツーシートタイプの車の助手席にそのAV嬢を乗せ、私は次に用事があった場所にもっとも近い原宿駅で、彼女を降ろす。
今日はありがとーございました〜!
屈託のない笑顔で手を振る彼女が、私を見送ったあと直行したのは駅前の牛丼屋だった……のをバックミラーで確認できた。思わず目を疑う。
なんで牛丼?
お腹減ってたの? 言ってくれりゃ、もうちょいマシなもん、経費で食わせてあげるのに……。
急いで車を止め、そのAV嬢のあとを追い、牛丼屋に入る。
仕事終わったから、ご褒美の一杯……なんですよー。
ビールをコップに注ぎながら私に気づいた彼女は、ばつの悪い様子も見せず、こう親しげに話しかけてくる。つまみは牛皿に、山盛りの紅しょうが。
もしかしてこの彼女は、さっきビールを飲み過ぎて、さっきビールを飲んだことを忘れてしまっているのではないか?
それじゃまるでコントだろ、とため息を漏らしつつも、私はそのAV嬢の奔放すぎる性格と行動に、心を惹かれはじめていた。
(つづく)
面白くなりそうですね。続きが気になります。
これ、けっこう大ネタなんで、小ネタをアップしながら現在書き進めています。(ゴ)