山田ゴメスの俺の恋を笑うな
注文の多い風俗店
神経質にも度が過ぎる……。
そのお店に入ってもう5分後に、私は早くも辟易した。
そのお店、とは、渋谷の道玄坂を奥にすすんだ雑居ビルの2階にある風俗店だった。
一応、「個室有り」をうたってはいたが、シンプルなソファベッドのまわりを薄いカーテンで仕切ってあるだけの、どう見てもピンサロでしかない、そんな大ざっぱな店である。
個室とは呼べない個室に案内され、まもなく私についた女性は、
隠し撮りとか恐いんでー、ケータイ預からしてもらってイイですかー?
と、まず私の携帯電話を取り上げ、彼女はいったん退出する。
あとから、かならず返しますんでー。
電話するための機械にカメラなんか付けるから、いろんな問題が起きるんだよな……。
最初に出された注文に何の疑問も抱かず、社会批判までしてしまうその時の私は、まだ脳天気だった。
見渡したところ、ほかに客はいない。多少の大声はかき消されそうな大音量のユーロビートが店内に流れている。
じゃあ、服脱いでもらってイイですかー?
もう少し会話とかを楽しんでもよいのでは?
とは思ったものの、裸でも会話を楽しむことはできるので、ここは素直に従い、ソファベッドに座っている私は、Tシャツを脱いで彼女に手渡し、ジーンズをずらす。
ズボンずらすだけじゃなくってー、キチンと脱いでもらってイイですかー?
脱ぎ方までいちいち指図される筋合いはない!
内心、さすがにムッとする。「キチンと」の意味が分からない。あと、靴とジーンズを自分の体から離してしまうのが、直感的に恐かった。
僕は半ずらし状態のほうが燃えるんですよー。
と、とっさに言い訳するが、彼女はなかなかゆずらない。
決まりなんでー。
こうくり返すばかりだ。
半ずらしのほうが燃えるんですよー。
私も負けずにくり返す。
じゃあ、せめて靴は脱いでくださいねー。ココ、土足厳禁なんでー。
ようやく折れた彼女が捨てゼリフのようにつけ加える。神経質にも度が過ぎる……と、私は辟易する。BGMの音量が増したと感じるのは気のせいか?
お金ないか………………………………………んでー、サイフの………………………ってもいいですかー?
あまりにうるさくて、彼女の声がよく聞き取れなかった私は、思わず「はあ?」と叫びながら、右耳のうしろにパアのかたちにした手のひらを当てて、聞き直す。
今度はゆっくりと、彼女が言い直す。声のトーンは変わらないが、読唇術の心得がない者でも内容がわかるくらいのはっきりした口調だ。
お金ないからって逃げちゃうお客さんもいるんでー、サイフの中身確認させてもらってもイイですかー?
基本料金はすでに受付で払っている。
ちょっと、おかしいのでは……?
内心不安がよぎりつつも、
もしかすると、本番とかのスペシャルサービスがあるんじゃないか
と、よぎった不安をその時の私は、希望的観測にすがりながら必死で打ち消してもいる。
しかし、ソファベッドのわきからパウチ加工されたメニューを差し出され、私の期待した性善説は、いともあっさり吹っ飛んだ。
オッパイ 3000円
乳首 5000円
キス 5000円
太もも 2000円
アソコ 10000円
手コキ 15000円
フェラ 時価
なんてこたあない。ただのぼったくりだ。
バックを抱き、パンツとジーンズをはき、店の外へと私は一目散に走り出す。
靴とTシャツと携帯電話はあきらめた。
裸足で上半身裸の状態で、コンビニを探し、Tシャツとスリッパを購入し、ほっと一息をつく。
そして、なんで乳首とキスが同じ値段なんだよ、時価って日本語おかしいじゃねえかよ……と心のなかで突っ込みながら、
新しいケータイ買うのと、ぼったくられるの、どっちが安上がりだったろうか?
とも暗算した。
いつの話ですか!
どれくらいかは忘れましたが、相当昔の話です。おそらく、携帯電話がメールではなく、まだ通話メインで使われていた頃だったのでは……? 人から聞いた話なのか、自分の話なのかは……明かすのをやめておきます(微笑)。(ゴ)