渡辺浩弐の日々是コージ中
第350回
2月15日「1984もはるか過去」
・高円寺にて、静かな神社を散歩してたら茂みの陰に監視カメラをめっけてぎょっとした。一歩外に出たらどこにいてもカメラの目を覚悟していなくてはならない時代なのである。窮屈な、と思う人もいるかもしれないが、全裸で外に出ちゃいけないのと同じようなことになっていくだろう。
・沖縄米兵の事件をきっかけに、街頭防犯カメラ設置についての論議がまた浮上している。監視カメラや監視社会に反対してると頭良さそうなのだが、実はそれが思考停止なんじゃないかと思う。少なくとも公共施設や繁華街に監視カメラを設置せずには、都市は立ちいかなくなっているのだ。
・100年後に、そういう社会になっていることは、間違いない。ならば理想論を振りかざすよりも、そういう空間で起こる事象をシミュレートし、予防策や対応策を考えておく、というのが正しいと思う。それも大急ぎで。
2月18日「話しかけてみる」
・中野のカフェやバーを回る。出来るだけ暇そうな時刻を見計らってカウンターに座り、店主にいろいろと話を聞く。こんなフレンドリーなことをするのは初めてである。
・人気店に共通していること。清潔好き(だから客がいない時でも忙しい)。コーヒーにこだわる(そういうところは他のものもおいしい)。地元のことを良く知っている(ただしぺらぺら喋ったりはしない)。
・それから余談だけど、蘊蓄を語りたがる客はものすごく嫌われるものなんですね。飲み屋で酒の、喫茶店でコーヒーの、メイドカフェでコスプレの話をするべきではないんだなあ。自重。
2月20日「死後のためのリゾート開発」
・神楽坂にて、TAGROさんと会う。日本酒を飲みつつ『2999年のゲーム・キッズ』の世界観について話し込む。
・講談社BOX版は、正式タイトル『2999年のゲーム・キッズ完全版DX』となった。全体を徹底的に書き直し、書き足している。いつの日か僕もその世界で暮らすのだ。手を抜けない。
・そしてTAGROさんは新境地を見せてくれるぞ。乞うご期待。
第349回
2月7日「PSP的なタイトル」
・担当して頂いている編集者のFさんは美人で仕事もばりばりできる独身キャリアウーマンだ。時々ものすごく大きな紙袋を持っている。いつ聞いても、服を買ったのだと答える。それも高級ブランドばかり。そして買った服は袖も通さないものが大半だ、という。それが異常なことだというのは自分でわかっているそうだ。
・こういう人にお薦めのソフトが『マイスタイリスト』(SCE/2月28日発売予定)。サンプル版でプレイさせてもらったが、現在なぜか成人女性層からの支持が厚いPSPのマーケット・イメージを正しく捉えた好企画だ。
・PSPにカメラを取り付けて、自分の服やバッグやアクセを全て写真で撮って入力してしまうのである。後は画面上で整理したり、いろいろ組み合わせてみてワードローブを考えたりするのだ。オートスタイリングのモードにすると、季節や会う人や行く場所に合わせて、手持ちのアイテムを合わせてのスタイリングを提案してくれたりする。
・とりあえずクロゼットはぐちゃぐちゃでもいいから、服をこのソフト上で整理する。ワードローブをストレスにせず、ゲームとして楽しむ。ウィッシュリストもあって、つまり雑誌に載ってる服を撮って、ワードローブの中に混ぜてしまう。さんざん試行錯誤してみて手持ちのアイテムとうまく組み合わせることができるということがわかった段階で、実際に買うのである。
2月9日「あと991年」
・講談社BOXから『2999年のゲーム・キッズ完全版』がリニューアル・リリースされることに(4月1日発売予定)。諸事情あり初版で打ち止めになっていた本で、中古品を1万円を超える価格で購入したなんてメールを頂いたりして申しわけなく思っていた。
・過去のショートショートはできるだけドワンゴやニワンゴのケータイ配信で読んでもらえるようにしているところなのだが、この本は掌編・短編・中篇含め1冊まとまって意味を成す設定もあるので、また本として、手に取っていただける機会を頂けたことは本当に嬉しい。いろいろな形で支持し復活に繋いで下さった方々に本当に本当に感謝。
・今回、TAGROさんがたくさんのイラストを描いて下さった。僕も新作を書き下ろした。10年ぶりに秘密の一つを明かすよ。これはTAGROさんに、ビジュアル化して頂いて載せる。
・作品について改めて。これを読めば、死んでも大丈夫になる、そんな本です。一度でもこの物語を脳細胞に刻み込めば、あなたは、この世界の中で永遠に暮らせるようになるわけです。
2月14日「面倒を楽しむ」
・自分の会社の登記を変更する手続き。飲食店の経営とか、物の販売とか、いろいろ資格や許諾を申請するにあたり、定款の事業目的の文案を変える必要があった。例えば古物商なんて、資格持ってないのに書いちゃうのってまずいと思っていたのだけど、定款目的に入ってないと申請ができないのである。
・いちいちお金もかかるし時間も取られるけど、こういう経験もいつか何かの役に立つかもしれない。何の役に立たなくても小説の栄養にはなる……と、いいなあ。
第348回
1月31日「1円ならしょうがない、か?」
・20年ほど前、中国の貿易関係者と話したことがある。日本側に輸入と流通の体制を作ってもらえれば、たいていの野菜は……キュウリでもニンジンでもタマネギでも……店頭で1円均一で売れるようになりますよ、という試算をもって各所を回っている人だった。しかし、反応は良くなかったようだ。安すぎる、ということだったらしい。
・八百屋さんもスーパーも1円のものなんて売りたがらない。いくら売っても儲からないから、と。それで彼は、日本向け野菜の付加価値を上げていく計画を作った。品質と安全性を管理し精査する仕組みを作り、それで価値と価格を上げる、と。ところが、それは拒否された。その必要はない、という返答が政府筋からあったらしい。商社、つまり食品のプロではなく流通のプロが動き出していた。激安の野菜をそのまま輸入して小売り流通に流すのではなく、加工用に使うことにしたのだ。中国国内にどんどん工場を作らせ、パッケージ化してから日本に輸入する。これなら、原価の100倍で売ることができる。消費者でも小売業者でもなく、メーカーと商社だけが得できるシステムがこの時に出来たのである。
・パッケージに日本語のロゴが綺麗に印刷されていれば安心してしまう。それって本能が壊れてるってことだよね。
2月1日「フロイト的メタファー」
・『ライラの冒険 黄金の羅針盤』試写。90年代後半に生まれたファンタジー小説シリーズの映像化。その世界では人の魂の一部が「ダイモン」として体の外に出ていて、様々な動物の姿をしている。ネコだったり、サルだったり、イタチだったり。子供の頃はそれは不定形で、思春期までにたくましく形を整えていく。
・それぞれの主人に常にまとわりついているかわいらしい姿がリズム&ヒューズ社のCG技術で描かれる。ファンタジーとしては守護精霊として設定されているが、アニメによくあるマスコット動物を高い完成度で映像化したもの。あるいは性的メタファーとみるべきかもしれない。少年少女が邪悪さを獲得しないように、「切り離し」という手術が考案されていたりして、深読みするとなかなか怖い。諸星大二郎っぽいね。
・ダイモンの小動物だけでなく、鎧をまとった騎士として活躍するシロクマがむちゃくちゃリアルで、なのに知的で勇ましくて、かっこいい。シロクマ好きなんだよなー。
2月4日「箱開いた」
・文芸誌『パンドラ』の創刊号が出た。AB面の2分冊発売で、3月発売のサイドBには僕の長編も載りますよ。
・講談社BOXの太田編集長にまた、インタビューしてきた。近々アマゾンの講談社BOXコーナーに載る予定。