「君は素敵すぎる。これがラテンのノリか!」――46歳のバツイチおじさんはダンスフロアで恋に落ちた〈第33話〉
マリーとジュリとその彼氏、そしてヨガの先生と俺の5人は夜8時に宿の一階に集まり、10分ほどワイワイ言いながら歩き、海沿いのパーティー会場であるイタリアンレストラン『ガーデン』に到着した。レストランに入ると、宿のイタリア人オーナーであるルッチが俺たちを迎えてくれた。
ルッチ「おー、ごっつも来たのか。今日は楽しんで行きなよ!」
俺「ありがとう、ルッチ! あ、でも、意外とガラガラだね~」
ルッチ「もうちょっと遅くになったら集まってくると思うよ」
俺たちはルッチの用意してくれた椅子に腰掛けてスパゲッティーとキングフィッシャービールを注文した。
5人「チアーズ(乾杯)」
5人は食事をしながらたわいのない話で盛り上がった。ところが、酒が進むとドイツ人女性キラやマラたちと飲んだ時と同じ問題が発生した。
アメリカ人とイギリス人の話す英語のスピードと発音、ボキャブラリーに全然ついていけない。
あの時と同様、英語の先生であるマリーが気を使って、たまにこちらに話を振ってくれるが、1分半くらいのその話題が終わると、また白人同士でハイレベルの英語に戻る。
俺は途中から完全に孤立してしまった。みんなすごく気が廻る良い人だけに、話を途中で腰を折る俺の存在が申し訳なく感じてしまう。
すると、それに気づいたルッチが、どこからか一人の若い黒髪の美女を連れてきた。
ルッチ「彼女はガルシア。チリ人の女性なんだ。ごっつ、隣の席空いてる?」
俺「あ、空いてるよ。どうぞ!」
ガルシアは俺のソファの隣の席に座った。
ガルシア「はーい」
俺「あ、…はーい」
それが俺とガルシアとの運命的な出会いだった。
ガルシア「私、あまり英語が上手じゃないの。ゴメンなさい」
俺「いや、俺もほとんど片言なんだよね」
ガルシア「あ、でもあなたの英語聞き取りやすいわ。アメリカ人やイギリス人の英語って早くって難しいの」
俺「だよねー。俺もそれで苦労してるんだよ」
ガルシアとは英語で苦労してるという話題で盛り上がった。しかも片言同士の英語だからわかりやすい。俺たちはすぐに気が合い、連絡先を交換した。
「英語でうまくコミニュケーションが取れないことが縁になるとは」
夜も10時を過ぎるとダンスフロアーにポツポツ人が集まってきた。8割がインド人で2割はツーリストという割合だ。
ガルシア「私、踊りたくなっちゃった」
いいね~若い女性のダンス!
しかも南米美女!
ラテンのノリ!
ランバダのノリ!
ガルシア「ごっつ、一緒に踊ろうよ!」
俺「え? 俺も?」
ガルシア「ねぇ、行こ!」
俺「ダンスか……」
つーか俺、46歳のおっさんだぞ。
毎日が「老人と海」なんだぞ。
外国人とはいえ、20代の女子とダンス……。
恥ずかしい。
いや、めっちゃくちゃ恥ずかしい。
顔から火を噴くぐらい恥ずかしい。
女子と最後に踊ったのなんて、高校生3年の春休み、大分市にあったカラオケディスコ「真珠の森」のチークタイム以来だ。
無理だ。
無理無理。
そうだ。
ダンスとか若者と同じ目線じゃなくて別の大人の魅力で勝負しよう。
それがいい。
うんうん。
だって老境だもの。
バツイチだもの。
うんうん。
断ろう。
その時、俺の心の奥から謎の音が聞こえてきた。
「しこしこしこ・・・しこしこしこ」
なんだ? オナニー音か?
「しこしこ」
違う。
「やるし(こ)ないんだよ。やるし(こ)ないんだよ」
突如、頭の中に閃光が走った。
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
記事一覧へ
記事一覧へ
この連載の前回記事
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ