「君は素敵すぎる。これがラテンのノリか!」――46歳のバツイチおじさんはダンスフロアで恋に落ちた〈第33話〉
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高校時代のバスケ部一年だったころ、夏合宿初日に俺たちは「インターバル」というダッシュ&ランニングを一時間以上繰り返すという地獄のような練習をしていた。中学時代に県の強豪校で鳴らし、自信満々で高校に入ってきた一年生のチームメイトは、そのあまりの練習の激しさにゲロを吐き、バタバタと倒れ、気を失った。目がさめると、また走る。誰もが逃げ出したいと思っていた。
そんな光景を見て、キャプテンの清太郎さんはこう叫んだ。
「一年、頑張れ!」
俺たちは答える元気さえなかった。
すると監督がチームメイトを集め、こう言った。
監督「お前ら、辞めたいなら辞めてもいいんだぞ。すぐに荷物をまとめて帰れ! でも、ここに残るんやったら――」
そして、声のボリュームをあげてこう続けた。
「やるし“こ”ないんだよ!」
監督、それ、「やるしかないんだよ!」の言い間違えやろ!
誰もが心の中で突っ込んだ。
だが言えない。
怖いから。
その後、練習が厳しく、誰かがくたばりそうになった時、俺たちはこう声を掛け合い気合を入れた。
「やるしこないんだ! 頑張れ!!」
その言葉は俺の、きっと俺たちチームメイトにとっても「座右の銘」となった。
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心の中で何度もつぶやいた。
やるしかない。やるし(こ)ない。やるし(こ)ない。
「やるし“こ”ないんだよ。隆一郎(ごっつ本名)」
俺は断固たる覚悟を決めた。
俺「ガルシア、踊ろうか!」
ガルシア「行こ!」
俺たちはダンスフロアで向き合った。
南インドには珍しいアジア人とラテン女性のカップルは注目を集め、インド人が周りを囲った。
音楽はインド映画ボリウッドムービーのダンスシーンに流れるダンスミュージックだ。
俺はガルシアの目を見つめた。
ガルシアもまた美しい瞳で、俺を見つめた。
俺たちは強く見つめあった。
俺は曲に合わせ、軽くステップを踏んだ。
ガルシアもステップを踏んだ。
サンバかサルサかは知らないが、ラテンのステップだ。
映画『パルプフィクション』のワンシーン、ジョン・トラボルタとユマ・サーマンのダンスシーンのようなクールな始まりだ。
俺は少し激しくステップを踏んだ。
反応するかのようにガルシアもステップの速度を上げた。
周りのインド人は盛り上がった。
ガルシアはエロい感じで上半身を使い、セクシーに体をくねらせる。
俺もガルシアの動きに合わせ上半身をくねった。
俺が手を出すと、ガルシアはゆっくりと俺の手を握り、小気味よく回転した。
まるで時間が止まったようだった。
曲が転調すると、もう二人のダンスは誰にも止められなかった。
俺たちはダンスフロアを魅了した。
盛り上がるインド人たちは俺たちの単なる引き立て役に成り下がった。
一曲踊り終えると、ダンスフロアの至る所から拍手が飛び交った。
ガルシアを見て微笑むと、ガルシアもニコリと笑みをこぼした。
「最高だよ、ガルシア! 君は最高だ!!」
俺は一瞬で恋に落ちた。
ガルシアの瞳も少し潤んでいるように感じた。
フロアの中の彼女は誰よりも美しく輝いていて、男たちは彼女をうっとりと見つめていた。
俺「ガルシア、ダンス上手いね!」
ガルシア「ごっつも最高よ」
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