「君は素敵すぎる。これがラテンのノリか!」――46歳のバツイチおじさんはダンスフロアで恋に落ちた〈第33話〉
その時だった。
遠くのほうから長身の金髪ヒッピーファッションのアメリカ人男性が、俺たちのダンスに興奮して激しいダンスを始めた。
全身をくねくねとくねらせて踊っていた。
その姿はまるでタコだ。
タコダンスだ。
その奇妙な動きに呼応して、周りのインド人たちが盛り上がり始めた。
そのヒッピー野郎はくねくね踊りながら俺たちのほうに近づいて来た。
すると、俺を完全無視し、端に押しのけ、ガルシアの前に陣取った。
そして、ガルシアの目を見つめ、タコダンスを踊り始めたのだ。
「おい、何なんだよこいつ!」
かなりムッときた。
なんだこのタコ野郎は!
するとタコ野郎は、軟体動物のような動きで一段と激しいタコダンスを踊り始めた。
なんだこの変なダンスは。
笑っちゃうぜ。
「ガルシア、そろそろ席に戻って一杯飲もうか」
そう告げようとガルシアの顔を見た瞬間、俺は唖然とした。
「……ガルシアが……笑ってる」
俺に微笑みかけたあの美しい笑顔で、タコダンスを見て笑っているのだ。
俺の中の何かが動き始めた。
なんとも言えない複雑な気持ちがうごめいた。
「この笑顔は……やばい」
男の本能が瞬間的にそう悟った。
ヒッピータコ野郎はガルシアの笑顔を見てさらに激しくタコダンスを踊っている。
ガルシアもそれに呼応してステップを踏み出した。
「このままじゃガルシアをとられる!」
俺は何か行動を起こさねばならなかった。
しかし、自分の全身全霊のダンスはすでに発揮してしまった。
ガルシアに声をかけて席に連れて引き離すのは、ダサい。
彼氏じゃないんだし。
他にできること、できること……。
たとえば、二人の周りで「ヒューヒュー」と大声を出し盛り上げる、というのはどうか。
ダメだダメだ。
盛り上げてどうすんだ!
バカか俺は!
うーん……手がない。
俺は完全に追い込まれた。
俗にいう八方ふさがりだった。
その間も、タコ野郎は八本の足でもあるかのごとく激しく器用に踊り続けている。
よく見ると、ガルシアのラテンダンスとタコダンスが、いい感じにフィットしつつある。
このまま曲が終わるまで静かに見守るしかないのか?
「やるし(こ)ないいんだよ!」
頭の中にまたあの言葉が鳴り響いた。
タコと戦うにはどうすればいい?
相手がタコならばこちらはイカか?
イカダンス。
それじゃあタコと変わんねーよ。
思い出せ思い出せ。
何かあるはずだ。
日本人ならではの何かが……。
日本男児ならでは何かが……。
「そうだ!」
俺は二人の間に再び割って入った。
そして腰を落とし、重心を低くした。
そして、手首を90度に折り曲げ、前方に突き出した。
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
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