「あくまでも自然な再会が運命的だ」――46歳のバツイチおじさんは灼熱のビーチを4時間近くさまよい続けた〈第34話〉
夕方になり、夜ヨガをし、シャワーを浴びてベッドに転がった。
「メッセージで晩御飯、誘おうかな…」
スマホを取り出しFacebookメッセージを開いた。
だが、誘う勇気がない。
「何やってる?」「元気?」
どんな言葉がいいんだろう?
俺は英語でデートの誘い文句を書いては消しを繰り返した。
まるで西野カナの歌詞に登場する女子高生のようだ。
46歳。初老。バツイチ。
でも今、俺の心は乙女だ。
46歳の乙女は「誘う勇気」を必死に絞り出そうとしている。
高校の頃、黒電話で好きな娘に電話かける時のドキドキ感を思い出した。
ガルシア、君はいま何してるの?
いま何処にいるの?
そんなとき、脳内iTunesが作動した。
西野カナはサビしか知らないため、薬師丸ひろ子の『あなたを・もっと・知りたくて』の軽やかなメロディが始まった。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
ベルが鳴る あなたの部屋で
8つまで数えて切った
淋しさはこわくないけど
逢えないと忘れそうなの
「もしもし 私 誰だかわかる?」
子猫をひざに長電話した
ささやきに 戻りたい
もっともっと あなたを
もっともっと 知りたい
いま何してるの? いま何処にいるの?
そして愛してる人は 誰ですか?
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
俺はドキドキしながら文章を作った。
慎重に慎重に。
くさすぎないように。
あまり恋愛テイストを感じさせないよう、普通に。
友達の感じで。
【ハーイ! 誰だかわかる? 日本から来た後藤隆一郎です。ごっつです。昨日、ビーチサイドのレストランで蛇拳ダンスをしたの覚えてるかな?】
これなら大丈夫。ただのお友達の文章だ。
「送信!」
返信を待ち、もしリアクションが良ければ晩御飯に誘おう。
だが、夜8時を過ぎても返信は来ない。
9時を過ぎても来ない。
10時まで待って返信がなければ一人でご飯を食べに行こう。すべてのレストランが閉まる時間だ。
しかし、10時になっても返信はない。
もう少し待とう。
もう少し。あと少し。
結局夜12時を回っても返信はなかった。
その夜はご飯を食べずに寝ることとなった。
この連載の前回記事
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ