更新日:2022年08月23日 15:32
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8歳の北朝鮮人少女の演技に胸が潰れる…映画『太陽の下で―真実の北朝鮮―』はリアルと演出をむき出しに描いたドキュメント【鴻上尚史】

満面の笑みだった少女が涙を流したそのあとで

 もともと、ロシアのヴィタリー監督は、「北朝鮮に自分の祖国(ソビエト連邦)の過去を見たいと思いました」とパフレットで語ります。 「どうしてあの体制が今でも維持できているのか、自由が圧迫されているのにどうして人々がそれに従っているのか。大きな過去を抱え、過去へと行こうと思っていたのです」  けれど、北朝鮮のリアルを撮ることはできませんでした。  工場に向かう人々が、止まって待っていて、掛け声と同時に歩きだす瞬間は、まるで映画『トゥルーマン・ショー』そのものです。  胸潰れるのは、8歳の少女ジンミの演技です。僕達がよく目にする「満面の笑みで歌い・踊る」少女と同じく、彼女は誇らしげに祖国を語り、歌います。  そして、8歳の彼女は朝鮮少年団に入った抱負を語るのです。 「少年団に入って組織生活をします。組織生活をすれば過ちに気付き、何をすればいいのかわかります」  暗記した言葉が続きます。 「大元帥様たちの遺訓を守り、金正恩元帥様の教えの通りに行動し、チュチェ革命偉業を、代を継いで光り輝かせる社会主義祖国の後代として生きることを誓います」  けれど、一度、彼女の目から涙が流れます。それは、北朝鮮側の監督が部屋を出た時に起こりました。彼がいると彼女の目が泳いでしまうので、ロシアの監督が外で待っていて欲しいと彼らを退去させたのです。  ロシアの監督は、彼女が泣いたことを知られてはまずいと考えて、ジンミになにか楽しいことを考えてとアドバイスします。楽しいこと、思わず微笑むこと。けれど、ジンミは考えつかないのです。  この作品を知った北朝鮮当局は、すぐにロシアに上映禁止を要求しました。ロシア政府はヴィタリー監督への非難声明と上映禁止を発表しました。けれど、ロシア国内の民間の映画館で上映し、やがて、世界各地の都市へと上映は広がりました。  「リアル」と「演出」がここまでむき出しになっているドキュメントを僕は初めてみました。とにかく凄まじいです。
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