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日本酒は辛口に限るは本当か? ビジネスマンのための一目おかれる酒知識

淡麗辛口の日本酒を簡単につくるテクニックがある

 意外と知られていないのは、日本酒のつくりには、淡麗辛口にするテクニックが存在するということです。炭濾過(または炭素濾過)という言葉をご存じでしょうか?  ほとんどの日本酒は、最後に活性炭を入れて味を調えています。これが炭濾過です。「整える」というと聞こえは良いのですが、雑味はもちろんのこと、旨味まですべて活性炭が吸い取ってしまうので、これを行うとどんな酒も色は透明になり、味は限りなく淡麗辛口になります。

透明が当たり前も思い込みだった

 炭濾過を行わない蔵として有名なのは、田酒や南部美人、菊姫などです。これらの酒は、淡い黄色で米の旨味が残っています。  田酒の蔵元西田社長はこう言っています。 「よく“炭で化粧する”というけれど、炭濾過は化粧ではない。雑味が多過ぎたり、ヒネた酒は、もう病気だと思います。だから炭は“化粧”ではなく“薬”。うちの酒は火入れや貯蔵にこだわって、絶対ヒネないようにしています。色がついていてもきれいな酒というのは存在するのです」  ただ薄辛い酒なら、たくさん活性炭を入れれば簡単につくれます。難しいのは、米の旨味がありながら、きれいでスッキリとした酒です。そういう酒に出会ったら、その蔵の技術力は高いと思って間違いないでしょう。辛口主義の皆さん、これからは炭濾過にだまされないでくださいね。  もうひとつ、辛口主義の日本酒通がこだわる「日本酒度」について、衝撃の真実をお話ししましょう。

日本酒度に関する思い込み

 日本酒度は通常裏ラベルに書いてあり、一応、プラスにいくほど辛口、マイナスにいくほど甘口ということになっています。「一応」と言ったのは、この日本酒度がくせものだからです。  じつは日本酒づくりの現場では、日本酒度が甘辛を表す指標とは考えられていません。  日本酒度はあくまでも比重で、水より重ければマイナス、軽ければプラスとなります。糖分は重いのでマイナス、アルコールは軽いのでプラスです。  問題は糖分の組成にあります。日本酒は純粋なアルコールではないので、どんなに日本酒度がプラスでもエキス分が残っており、その中には糖分も含まれます。その残糖の構成が、ブドウ糖を多く含んでいれば甘く、デキストリンなどの糖であればあまり甘みは感じません。  また、アミノ酸の中にも甘みを感じる成分がありますし、酸度が低くても甘く感じます。つまり日本酒度じたいが甘辛を正確に表していない上に、アミノ酸度や酸度とのバランスでも甘辛の感じ方が違ってくるというわけです。  ですから「日本酒度プラス8の超辛口!」などという酒でも、甘く感じる酒はあります。それでも辛いとありがたがるのは、ラベルや日本酒度の数字を頭で変換して飲んでいるからです。  そもそも醸造酒でワインほどの酸味がない日本酒は、甘い酒なのです。  どうしても辛い酒が飲みたければ、どうぞ焼酎などの蒸留酒を飲んでくださいね。 【江口まゆみ】 神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学卒業。酒紀行家。1995年より「酔っぱライター」として世界中の知られざる地酒を飲み歩き、日本国内でも日本酒・焼酎・ビール・ワイン・ウイスキーの現場を100軒以上訪ねる。酒に関する著書多数。SSI認定利き酒師、JCBA認定ビアテイスター
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