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「安保法案では平和にはならない」“平和学の父”ガルトゥング博士インタビュー

「積極的平和主義」を掲げ、安保法制の採決を急ぐ安倍政権。「積極的平和」の概念を生んだ「平和学の父」ヨハン・ガルトゥング博士が、安倍政権の「平和主義」に物申す! ◆安倍政権の“積極的平和主義”は、平和とは真逆  安保法案成立が差し迫っている今、“平和学の父”として世界的に著名なガルトゥング博士がこの夏、緊急来日。日本が取るべき外交安全保障政策についてインタビューを行った。
安保法案では平和にはならない

ヨハン・ガルトゥング博士

――安倍首相の語る「積極的平和」についてどう思われますか? ガルトゥング:安倍首相の「積極的平和」と、私が’58年に提唱した「積極的平和」は、意味がまったく違います。安保法制は、日本に平和をもたらすどころか、日本の敵対国を増やすことになるでしょう。多くの日本国民が願った方向とは逆に行ってしまっている。 安保法案では平和にはならない 米国は建国してからこれまで、248回も他国に軍事介入を行ってきました。特に朝鮮戦争以降はずっと負け続けています。ベトナム戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争……。そしてそのたびに国際的地位が低下しています。このような国とともに軍事行動することが、どうして日本の安全につながるのでしょうか? 米国は、欧州がかつて冷戦時代のようには戦争に協力してくれないことで、不満を抱えています。それで、日本にその代役を務めさせようと考えているのです。日本が米国とともに“対テロ戦争”に参加したら、日本は必ずテロのターゲットになります。1人のテロリストを殺せば10人のテロリストが生まれる。それが対テロ戦争の実態なのです。  日本では、安保法制で日本人が戦場に送られると言って議論になっていますが、それだけではありません。日本がテロの標的となる危険性があるのです。 ――中国や韓国、北朝鮮など、日本の周辺諸国については? ガルトゥング:安保法制に理解を示す層は中国や北朝鮮などの脅威をあげている。もし日本が攻撃されたらどうしたらいいか、という問題です。  例えば、日中が抱えている尖閣諸島(中国名釣魚島)の解決は、日中がそれぞれ40%ずつの権益を分けあい、残りの20%を北東アジア共同体のために使うのはどうか。今のままでは0%です。お互いにメリットがあるようにするのが紛争問題解決の鉄則です。
安保法案では平和にはならない

’04年4月、米軍の無差別攻撃で破壊されたイラク西部ファルージャ。これを国連人権理事会も「国際人道法違反」と非難

――確かに事実上、日中韓の貿易総額は日米の貿易総額を超えています。中韓は無視できる存在ではありません。 ガルトゥング:モデルとすべきなのはかつてのEC(欧州共同体)でしょう。政治的、経済的に深いつながりを持つことにより、かつては1000年にわたって戦争が行われていた欧州で戦争が起きることは考えづらくなった。ですから、日本と中国、韓国と北朝鮮で「北東アジア共同体」をつくればいい。これについて非現実的だという批判もありますが、日中両国には、長い経済的・文化的交流の歴史がありますし、それは今も続いています。お互いに良いところをもっと見るべきです。 安保法案では平和にはならない――ガルトゥングさんは沖縄に注目されていますが、その理由は? ガルトゥング:沖縄は歴史・文化的にも地理的にも、アジアの中心となりうると思います。もし東アジア共同体をつくるなら、その本拠地は沖縄に置くべき。そうすれば、米軍基地も必要なくなり、基地問題も解決するでしょう。  どんな相手でも対話して、何が紛争の原因なのかを見つけること、紛争の原因となる問題に、いかに対応していくかが大事です。  例えば「イスラム国」(IS)がいかに残虐か、ということが報道されています。確かに、人の首をナイフで斬り落とすという行為は残酷ですが、では(米国などがやっているように)爆撃機から空爆し、数百、数千の人々を殺すことは残酷ではないのでしょうか?
安保法案では平和にはならない

パレスチナ自治区ガザは’14年夏にイスラエルの攻撃を受け、2100人が死亡、10万人が家を失った

 私はISとも対話しています。彼らが問題視しているのは、サイクス・ピコ協定、つまりイギリスやフランス、ロシアが第一次世界大戦中に現地の人々の声を聞くことなく、勝手に決めた中東での国境線のことでした。この問題を考える上で、避けて通れないのは、イスラエルをどうするかという問題です。イスラエルの生存権を確保するということは、同国を守ろうとする米国がイラク戦争を開始した原因ともなりました。イスラエルの人々の生存権は守られなくてはいけませんが、イスラエルがどんどん入植地をつくり占領地域を拡大している状況では、中東の人々は納得しません。イスラエル側も自制すべきでしょう。  日本は、憲法9条を持っているという他国にはない“信用”を強みに外交交渉をするべきです。日本は米国の従属国でない。平和貢献の分野において世界のリーダーとなることができるのです。 【ヨハン・ガルトゥング博士】 ’30年ノルウェー生まれ。国際的に著名な平和学の第一人者。オスロ国際平和研究所など多くの平和研究機関設立に貢献。100以上の国家間、宗教間紛争を調停した経験を持つ。’87年に「ライト・ライブリフッド賞」を受賞 取材・文・撮影/志葉玲 写真/朝日新聞社 時事通信社 産経新聞社
ガルトゥングの平和理論

本当の「積極的平和」とは?

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