ちょっとイイ話

 近所のモスカフェで原稿を書いていると、
となりの席に、カップルだとか友だちといった関係とは
なんとなくフィーリングの違う男女がやってきた。

 どうやら保険の勧誘であるらしい。

 女が勧誘する側で、男が勧誘される側。
 漏れ聞こえてくる話を聞いていると、
ふたりとも22歳で、まだ大学を卒業したばかりの
新入社員だという。

 百戦錬磨のおばちゃんが、飴チャンをエサに
ウブな男(=被勧誘者)をきっちりカタにハメていくような
ありがちなケースではなく、
お互いとも見るからに固くてぎこちない。

 なにがそうぎこちないかと言えば
パソコンを打つ手もそぞろに、
耳をそばだてて盗み聞いている
私が思わずイライラしてしまうくらい、
とにかく会話がなかなか本題(=保険の勧誘)
にまで進まないのである。

女 「今は、とくに大きなお病気などされてないんですよね?」
男 「はい。健康ですね」
女 「スポーツとかされているんですか?」
男 「休みの日は野球やってます」
女 「わ〜、すごい! 私、野球大好きなんですよー!」
男 「え、そうなんですか?」
(男の目が心なしか輝きを帯びる。その横で私もうんうんと頷く)
女 「大好きですよー! だって私、高校のときは野球部のマネージャーだったんですよー!!」
男 「そうなんですか? まさかスコアとかもつけれたりするとか……?」
(私も心の中で彼女に同じ質問を投げかける)
女 「バリバリですよー! これはもう運命の出会いですね!!」
男 「じゃあ、今度オレのチームのマネージャーやってくださいよ」
(つい、彼と同じセリフを口にしてしまいそうになる自分を私は辛うじて抑制する)
女 「行きます! 行きます〜!!」
男 「じゃあ、今度マジで誘っていいっすか?」

 と、まあ、こんな感じの内容が延々続くわけだ、いやはや……。

 でも、

保険勧誘から始まる恋

とは、ちょっとイイ話ではないか。

 50歳を迎え、
継ぎめなく襲ってくる
小病気に常に悩まされる
今の私ではもはや、
絶対に味わえない
甘酸っぱい体験である。

PROFILE

山田ゴメス
山田ゴメス
1962年大阪府生まれ。マルチライター。エロからファッション、音楽&美術評論まで幅広く精通。西紋啓詞名義でイラストレーターとしても活躍。著書に『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)など
『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)
『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版社)
OL、学生、フリーター、キャバ嬢……1000人以上のナマの声からあぶり出された、オヤジらしく「モテる」話し方のマナーとコツを教えます

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