渡辺浩弐の日々是コージ中
第291回
12月11日「白着ていくべきだった」
・書店を対象にした「講談社BOXレーベル」新作説明会。太田編集長、そして清涼院流水さんと一緒に登壇。僕は『ィキル』と『ィキル2.0』について喋らせてもらった。流水さんも太田さんも上から下まで黒い服だった。と思ったら僕もそうだった。
・流水さんは西尾維新さんと二枚看板で「大河ノベル」企画(=来年1月から12ヶ月連続12冊刊行)に挑まれている。この日も明け方に一冊書き上げたところだということだった。本当に追いつめられた時に作家の脳から発せられる不思議な力についてなど、控え室で話を伺う。
12月12日「30代女性の目ビームを和らげるもの」
・『Gガール 破壊的な彼女』見る。これメガネ美女映画の大傑作だよ!! 「クラーク・ケントの最大の魅力は変身前のメガネだ」という前提からその女性版を導き出したら、大作SFXのはずがセクシー&コメディーになってしまった、ということだと思う。
・ユマ・サーマン演じる主人公は、ニューヨークで展覧会のプロデューサーとして働く30代独身女性。ストレスとコンプレックスにまみれていて、黒縁メガネの奥はいつも伏し目がち。そんな様子がとてもチャーミングなのだが、実は、実際付き合うと大変、別れるのはもっと大変、な、「地雷女」だった。
・さらにその彼女が、街を飛び回り人々を救う「Gガール」でもあった、という設定。ビル火災を竜巻を起こして消し止め、ミサイルをひと蹴りでふっとばしてしまうパワーを、恋愛にも思いっきり向けてくる。セックスはベッドをぶっこわす勢いだし、嫉妬深くて暴力的で、しまいにはストーカーのようについてくる。
辟易して別れようとするとキレて屋根をぶちこわし、車を宇宙までぶん投げ、生きたサメをかついできて男の寝室にぶち込んでしまう。無茶苦茶なシーンの連続なのに、男子には「こういう女いるよなー」と、女子には「こういう気持ちもわかるよなー」と思わせてくれるリアリティーもあり。
・30代の独身女性は美しい。ただし仕事をバリバリこなしているスーパーパワーを、私生活では制御できずに、いろいろな方向に過剰に発散してしまったりすることがあると思う。それで身近な人や、時には自分自身を傷つけたり。ぎくしゃくしてる自分に気付いたら、ストレス解消のセックスやショッピングに走るのではなく、メガネをかけてみてはどうでしょう。この映画、働く女性のための「メガネと合わせるファッション」のテキストにもなるかも。
12月16日「無理だろうけどシリーズ化希望」
・劇場映画版『どうぶつの森』。このゲームのプレイヤーなら大人の方もぜひ。なごむよ。
・ポケモン映画のようにゲームの世界観をさらにパワーアップしようという野心は見受けられないが、一流のプロがきちんと作ったもの、という印象。制作者が自己主張せず、ゲームの世界観そのままに仕上げている。だが、それがいい。風景も、音楽も、キャラクター達も、彼らの口調も。ここもそこもあれもそれも、過去に見聞きしたことではなく、今も続けているゲームなのに、懐かしいのである。そして泣ける。なんというか、自分が子供の頃に住んでいた町を映画の中で見つけたような気分。
・ゲームをやっている脳をじんと共振させてくれる、そう言う狙いに撤した映画も一ジャンルを築いていくだろう。
第290回
12月7日「幽霊の側が叫ぶという発想」
・『叫(さけび)』試写。殺人事件を捜査する刑事(役所広司)は、被害者の周囲に、自分自身の痕跡を次々と発見する。そしてやがて、もしかしたら自分が犯人ではないかという思いにとらわれはじめる……。
・ホラーと銘打たれているが、黒沢清監督としては恐怖よりも現実を主観で捉えることによって現出する不条理感を狙いたかったのでは。例えばリンチの『マルホランド・ドライブ』のような。
・しかしストーリーをきちんと矛盾無く組立て語り尽くそうとしているため、後半かなり窮屈になっている。それから現れる幽霊ははっきりと姿を見せ、大声で叫び、両足ですたすた歩いて襲ってくる。このあたりのセンスは、欧米の観客を意識しているのかもしれない。プロデュース側からの意向がきつかったのだろうか。
・東京で船に乗り水上を行くと、街の風景が裏側から見えてとても面白い。そこから着想された作品だと思う。僕も久しぶりに隅田川を下ってみた。湾岸開発が進んでいる今は、新しい東京と古い東京を同時に展望できる興味深い体験だ。
12月8日「J文学、世界へ」
・講談社BOX編集部に。編集長の太田カーツ氏にインタビュー。彼がライトノベルの領域で着火した導火線は一体どこにつながっているのか、何を爆破しようとしているのか、一度きっちり聞いておきたかった。太田さんとは雑談やミーティングの機会は多いのだけど、あえて「インタビュー」というセッティングを頂いた。
・個々の作家のプロデュースについてだけでなく、今後の世界戦略についてまで、いろいろと聞くことができた(これは来春リリース予定の単行本に掲載する予定だけど、その一部分を近々アマゾンのサイト上で読んで頂けるようになるはずです)。
・この編集部は講談社の近くの別ビルにあり、ふらりと立ち寄りやすく、作家陣にも好評らしい。今日は奈須きのこ先生がいたよ。サインもらっちゃったよ。コミケでいろいろすごいことが起きる気配だよ。
12月9日「世界の中野で、愛をさけぶ」
・月刊情報誌『本』(講談社)にエッセイを書く。テーマは、「文学の舞台としての中野ブロードウェイ」。この場所についてはなかなか客観的になれないので、頭を冷やしつつ、観光客気分で改めて歩きまわってみたりした。
・講談社BOOK倶楽部公式サイト内『本』ページ内にもアップされると思うので、読んでみて下さい。
第289回
12月4日「このサイトに名前を書かれた人間は死ぬ」
・『ィキル2.0』サービス、スタート。『ィキル』を読んでくれた人に、さらにもう1作品ぶんのコンテンツを、ある体験として提供するというものです。
・店頭にはこんなPOPも置いてもらっていて感謝。ええと、まだお気付きでない方、ケータイを手に、名刺型しおりの、裏までよーく見てみてください。
12月5日「ケータイ小説ブームの発火点」
・ドワンゴの稲葉氏とミーティング。『魔法の図書館plus』というサービスを担当されている方だ。
・インディーズ作家が書いた小説をケータイで読めるポータル『魔法の図書館』から今ヒット作品が続々と生まれている。『恋空』のように、書籍化されてミリオンを記録したものもある。こことリンケージして、注目作品をさらに読みやすく加工して有料配信する公式サイトとしてオープンしたのが『魔法の図書館plus』である。
・ここに入れば、個人でも課金しながら作品を公開し続けることができる。小説家になりたい人は、今なら書いた作品をさっさと『魔法の図書館』で公開、人気を得て『魔法の図書館plus』入りを目指すという方法があるわけだ。
・インディーズとメジャーが、個人とマスコミが、ひきこもりの部屋とビッグステージが、地続きになることは重要だ。
12月6日「匂う映画」
・『パフューム ある人殺しの物語』試写。18世紀フランス。超人的な嗅覚を生まれ持った主人公が、社会の最下層からはい上がって香水職人=調香師になる。
記憶の底にある匂いを追い求めるうちに、やがて禁断の方法を用いての香水作りを始める。
・メディアに記録できない感覚「匂い」を表現する映像が美しい。腐肉、ウジ虫、血液、少女達の髪、肌、汗……。匂いはデータ化されないゆえに歴史に残らないわけだが、往事のヨーロッパでは調香師という職業が高いステイタスを認められていた。彼らは音楽家が和音を並べていくように原液を調合し、作品としての香水を創り続けた。
・この映画の強烈なメッセージは、素晴らしい才能は努力や環境とは関係なくいきなり生まれる、ということだ。才能のない人は努力だけで到達できる領域で二流の人生を生きるしかないのか(そんな、アマデウスのサリエリにあたる役をダスティン・ホフマンが好演している)。それとも、自分が天才となりうる領域を探し続けるべきなのか。