渡辺浩弐の日々是コージ中
第199回
1月27日「孵卵な人」
・『iモードスタイル』編集部にて、松永真理さんと対談。iモードの開発者と思いこんでいたもので意気込んでいろいろマニアックな質問を用意していったのは失敗。実はiモードについてはビジネス展開以降を手がけられたということらしい。
・この人の話は知識でなくアイデアによって進んでいく。そこが才能なのだった。こういう技術があって、というところから、それをどんなインフラに乗せて、とか、どんなプログラムと組み合わせて、というふうに進むのではなく、こんな遊びができるかも、というところにいきなり跳ぶわけ。iモード以降もこの人が各界で重宝がられてる理由がわかった気がした。
・技術を実用に結びつけていく。そこには水と油を混ぜることに似た難しさがある。どんなに時間をかけてシェイクしても、混ざらないものは混ざらない。でも、そこにタマゴ(乳化剤)を入れることによって水と油は混ざり、マヨネーズはできあがる。松永さんはその、タマゴの役割ができる人だと思う。
・さてケータイ+ネット上のコンテンツとしては次は「声紋」分析技術がキーになる、という話で盛り上がり、すごいアイデアもいくつか飛び出したが、それは記事にしないように頼んでおいた。先回りして、急いで特許申請しておこうっと。
2月4日「ドッジブームの火付け役に……は、多分ならない」
・『ドッジボール』試写に。うひゃひゃ、こりゃ楽しい。人生崖っぷちのおっさん達がドッジボール大会に最後の夢をかけて……というわかりやすい設定。70年代のマッチョ映画をパロディー化して、さらにスポ根ものの味付けを効かせている。飛んでくるレンチを避けたりハイウェイを横断したりといった猛特訓、SMボンデージファッションでの試合、etc.etc,etc…書くも下らないギャグが延々と続く。
・ポップコーン食ってビール飲んでげらげら笑ったりぎやーぎゃーヤジとばしたりしつつ観たい映画。そういうことをしてるとマナー悪いと怒られるわけだが。日本でも映画館の入場料がせめて¥500くらいになったら、もっと気楽にもっとたくさんの映画を、劇場で見られるのになあと思う。
2月5日「どんどん輸入しよう」
・『ドッジボール』にヤられた脳でWWE行って来ましたよ。ポップコーン食ってビール飲んでげらげら笑いながらの観戦。サイコーっ。真剣にバカをやって、貫禄の域にまで達するってのは、豊かな時代をよほど長く続けてないとできないのだと思う。アメリカはこれからはバカを主要輸出産業にしていってもいいかもと少し思った。
第198回
1月24日「命がけの散歩」
・「Gファンタジー」編集部にて担当の熊さん、マンガ家の遠野先生と打ち合わせ。
・『プラトニックチェーン』では、現在の東京の面白さをきちんと捉えたいという狙いもある。それで最近は街をうろつくだけではなく、穴場探しをやっている。とりすました風景の皮を一枚はぐと、そこにとんでもない光景が現れることがあるのだ。
・立入禁止の場所にも、入れたら入ってみる。線路を這っていたら電車が上を通り過ぎていったり、下水道に潜り込んだのはいいけどマンホールの蓋が内側からは持ち上がらなくて閉じこめられてしまったり。と、命の危険もときどきある(良い子はマネしないように)。
・そんな感じで取り溜めた資料写真をスクリーンに投影しつつ、キービジュアルを設定していく。重要な場所には、遠野さんや熊さんも一緒に行ってみようという話にもなった。今後の成果に乞うご期待。
1月25日「ゾンビに人権はないので」
・『ハウス・オブ・ザ・デッド』試写。セガの同名ガン・シューティングゲームを映画にしたもの。日本発のコンテンツがいろいろな形で国際化していくのはうれしい。
・体は良いけど頭は悪い若者達が、ゾンビがうようよしてる孤島に遊びに行って……という典型的なパターン。ただしかつては弱いからこそ恐ろしかったゾンビも今となってはどんどん強くなっていくしかない、と『ドーンオブザデッド』の時にも書いたかな。この映画でもゾンビ達は走り回ったり飛んだり跳ねたりして、やがて普通の人間と見分けがつかなくなる。
・つまりゾンビものはもうホラーではなくアクション映画にしていくしかないわけだ。人間はまずいけれども人間の形をしたゾンビならどんなに残酷にどんなにたくさん殺しても構わない、というコード事情からゲーム業界に成立したジャンルが、ここで有効になってくるわけである。
・押し寄せてくるゾンビ達を各種銃器でひたすら虐殺しまくるシーンを、ゲームCGではなく実写で映像化する、という目的だけのために作られた映画として観るべきものだろう。そして本当に「怖い」タイプのゾンビ映画は、今後は日本ホラー界から出てくるような気がする。
1月26日「熱いシーンから」
・ギャルゲーのコンシューマー機移植でがんばっているアルケミスト社、浦野社長と会う。マニアックなキャラクターを、マンガとアニメの力をうまく使って大きく展開していく、そういう仕事が最近は多いようだ。今年から来年にかけて、インディーズシーンからブレイクする作品が続出しそうだ。作家としてはメジャーと同人の両輪で走るような活動スタイルもありかもしれない。
・それから彼が仕掛けている萌えキャラ「びんちょうたん」のガチャガチャ向け新アイテム等をいろいろ見せてもらった。新作はキャラクターと乗り物や着物が分離する仕様である(メーカーはユージンだ)。この世界の巧みはすごいレベルに達してる。今コレクションしとけば100年後にはすごい価値のものになってるかもね。
・浦野さんは「京ぽん」(話題になってるインターネット対応PHS)からホームページを更新していた。いいですねそれ。
第197回
1月17日「10年前」
・1995年、阪神大震災の直後に現地に行った。その際、家屋やビルの壊れ方について、それぞれの裂け目や断面を、建築に詳しい人間と一緒に分析する機会があった。個人的に強く感じたのは、「昭和中期、建築物がいかに適当に作られていたか」ということだ。
・折れた柱の断面から、素材のコンクリに砂をものすごくたくさん混ぜて増量していたことがわかったりした。当時の工事担当者がそうやって資材費をちょろまかしたんでしょうね、ということだ。ちゃんと建てていたら、きっと倒れなくて済んだ建物だったのだ。あの大災害はかなりの割合で人災だったのもしれない(しかし、その責任はうやむやにされていったわけだが)。
・あれから10年、高度成長期はいかにいい加減な時代だったか、ということを僕はずっと考えている。戦後の焼け跡から立ち上がった世代を褒め称えるのはそろそろやめた方がいいんじゃないか、とも思う。
1月18日「音楽業界のようになるかも」
・ゲームソフトのインディーズ現状についていろいろと取材・勉強中。コミケだけではなく同人ショップを活用している作家が増えている。全国のショップときちんとお付き合いしていくことは個人のスタンスでも十分に可能のようだ(全国180店舗ほど押さえればおたく圏をほぼ網羅できるらしい)。その流通網の上で、10万本くらいまでは現実的なシミュレーションが成立する。10万本といえば、メジャーのゲームとしてもチャートインする数字だ。このスタイルで巨億の富を得る個人作家や少人数サークルは今後続出するだろう。
・ただ、それ以上の数字になると営業や、広告などについて別のノウハウが必要になるようだ。そこで大きなメーカーや取次の機能とのコラボレーションが行えると、望ましいのだが。
1月19日「死刑にするか、改心させるか」
・『コントロール』試写。死刑囚を新薬の人体実験に使う。それも、人間の良心を目覚めさせる薬。と、設定はあまりにも陳腐だが、丁寧に真摯に作られていてかなり引き込まれた。医学サイコものは古いアイデアでも時代が進み科学が進むほどにリアリティーが増すことがある。
・凶悪犯が本当に改心しているのか、それとも改心しているフリをしてるだけなのか、判然としないまま話が進む。そしてラストのひねりには唸らされる。果たして良心というものは実在するのか。人の心の闇の底にあるものはダイアモンドか、それとも、ゴミクズか。
・もしハイテクノロジーを使って悪人正機が果たせたとする。その人間は無罪釈放しても良いものだろうか。その場合、過去に犯した罪はどこに消えるのか。科学をもう一歩先に進める前に議論しておかなくてはならないテーマを提示している。こういう映画も見ようよ。