渡辺浩弐の日々是コージ中
第189回
11月9日「主役:NY」
・『TAXY NY』試写。NYの街中を、チタン製スーパー・チャージャー仕様の改造車タクシーでぶっとばす。その一発アイデアが最高に演出されていて、気持ちいいったら、ない。
・マンハッタンの道路事情がうまく使われている。すさまじい渋滞、一方通行だらけの場所、舗装工事がいいかげんな凹凸アスファルト、幅が太くなったり狭くなったりしている道……と、様々な状況をものすごい運転で走り回る。
・映画やアニメの業界ではとにかく「キャラ」を立てることが最重要と思われているフシがある。それは正しい。ただし、そのキャラは人間じゃなくても、例えば「街」でもいいのではないか。
・最近のハリウッド映画はNYやLAといった、ある意味くたびれた街の魅力をキャラクターとして使う技法に目覚めている。日本の街にも、面白い使い方ができるところが結構ありそうな気がする。渋谷だって新宿だって、秋葉だって中野だって。
11月10日「そんなアメリカ」
・『ニュースの天才』試写。1998年、アメリカのメジャー政治雑誌『THE NEWREPUBLIC』で起きた一大スキャンダルを映画化したもの。若手人気記者スティーブン・グラスが次々とものしたスクープ記事の大半が捏造だった、という事件だ。
・マスコミ業界の最前線にいるヤッピーが破滅していくプロセスは、派手な作りもできる題材だが、それをすごく地味に、登場人物達の心理描写を軸に見せる。
・嘘が暴かれてからもしゃあしゃあとしらを切ろうとする、あるいはしまいには逆ギレする若手記者の厚顔ぶり、そしてそんな彼を必死でかばおうとする同僚達の正義感(?)がとても現代アメリカ的だ。
・さて「そんなアメリカ」を非難するのが今の流行りみたいだけど、例えば日本のジャーナリズムでこれほどの事件はおきっこない。それはなぜだろうか、と考えると、もしかしたらこっちの方が絶望的なのではと思えてくる。
11月17日「インターネット的ギャラリー」
・「デザインフェスタギャラリー」に。知り合いのデザイナー「ヒヂリ」さんが個展を開催するというので、そのプロセスを拝見させてもらうことにしたのだ。普段はネットを拠点に活動されている人だが、こういう場は特に素材感や立体感のある作品を展示する機会として貴重だという(ヒヂリさんの展示は24日まで=写真)。
・この欄でも一度紹介したことがあるが、このギャラリーは、デザインフェスタの常設スペースだ。原宿のアパートを一軒まるごと改造して、一部屋ごとに貸しているもの。6畳くらいの小部屋が一週間4~5万で借りられる。告知はネットをうまく使って行えば、それ以外の費用はほとんどかからないようだ。泊まれる部屋もあるし、モノを販売しても良いらしい。限定ショップとして機能させてもいいというわけだ。
・新しい人が新しい作品を、既存のシステムに取り組んだり取り込まれたりする苦労をせずに発表できる場は、街のあちこちにもっともっと増えてほしい。インターネットは素晴らしいけれども、それだけでは不足なのである。こういう場所を活用することによって、バーチャル世界でやっている表現活動や商業行為を現実の空間にはみ出させる、そういう戦略が成立するわけである。
第188回
11月5日「1週間小説家」
・誰にも知らせずにまたこっそり逃げている。とは言っても遊んでるんじゃないぞ。完全小説家モードで仕事。まず、プラトニックチェーン・シリーズの長編小説版『晴れときどき女子高生』。無事、書き上がった。単行本が12月には出るぞー。
・プラトニックチェーンのコミックも順調。こちらは長編版だけでなくアンソロジー版も続くことになり、12月に2冊同時発売が決まったよー。
・つまりこの年末、プラチェ関係で3冊ほぼ同時リリースになります。↓『プラトニックチェーン 第2巻』(コミック/スクウェア-エニックス)『プラトニックチェーン セレクテッド・ストーリーズ 第2巻』(アンソロジーコミック/スクウェア-エニックス)『晴れときどき女子高生 /プラトニックチェーン』(長編小説/集英社)
・さらに文芸誌「ファウスト」誌に掲載予定のショート・ショート『Hな人人』完成。今回は2本、載ります。
・続いて文芸誌「メフィスト」誌掲載用の中編も、書き上がる。ものすごく異様なものになったような気がする。帰京したら担当編集者の太田さんと良く話し合ってみようと思う。
11月6日「中野でも沖縄」
・戻ってきた。と思ったら中野でりんけんバンド。まだ沖縄気分。
・いいなあ沖縄音楽。特に音楽業界の人でこいつにヤられて移住してしまう人が多いのも、頷ける。て去年も同じようなこと書いてたかな。
11月7日「ススメます」
・スクエニの担当編集者、熊さんが『爆笑問題のススメ』からの出演依頼をつないでくれた。毎回、作家が一人出るトーク番組です。
・はい、出ます。あの番組、実は出たいと思ってた。それも、今、このタイミングに。あのレギュラー出演者の方々とぜひ話してみたいテーマが、あったのだ。ネットを回遊してる方々ならピンと来るかもしれない、例の件です。
・というわけで二つ返事(というか一つ返事)。なので渡辺浩弐はラストテロップ「交渉中の作家」リストから「近日出演予定の作家」リストへの移行があっという間だった。井上雄彦さんみたいにひっぱった方が、かっこ良かったかな……。
第187回
10月29日「重力ばんざい」
・女子プロレスゲーム『ランブルローズ』(PS2/コナミ/2月発売予定)のサンプル版をプレイしている。3Dキャラクターの造形と挙動は非常に緻密。特に乳房部分の重力対応設定は瞠目に値する。
・ていうか、いいんですよこれが! エロくて、カワイくて、カッコいい! 巨乳。くんずほぐれつ。泥レスもあり……と、こう書いてると大味なバカゲーと思われるかもしれないけど、違う。個々のレスラーの体のつくりや仕草が繊細で、ゆえにレスラー一人一人がとても愛らしいのだ。WWEのディーバのような暑苦しさがない(いやディーバも好きだが)。この仕上がりは日本の職人的CGクリエーターの技量ならではのものだろう。アメリカ市場でまず先に売り出すみたいだけど、日本の美少女萌えゲーマーにも受けるのではと思う。
・それぞれのキャラクターは様々な格闘技界を代表して参戦してきていて、見た目や持ち技だけでなく、背負っている事情もそれぞれ、ものすごく濃い。
日ノ本零子……日本人のスポコン女子大生。レースクイーンのバイトをしている。アメリカ遠征中リングに散った伝説のレスラーを母に持つ。
アイーシャ……ショウビズ界に君臨するドル箱スターだが、護身のために始めたグレイシー柔術を極めてしまったのでレスラー転身。もちろんリングでも延々と歌い踊る。
デキシー・クレメッツ……テキサスの大牧場の一人娘。暴れ牛をヘッドロックで倒したことがある。
アイグル……遊牧民。モンゴル相撲の使い手。巨大な馬に乗って入場してくる。
紅影……信州で極秘に訓練を続けている忍者部隊乙組のくノ一。日本政府の特命により送り込まれた。
レベッカ・ウェルシュ……女子高生。ミニスカのコギャルファッションのまま闘う。
ミュリエル・スペンサー……レベッカの担任教師。不登校の教え子を追いかけて来たつもりで思わず参戦してしまう。
etc.etc.etc….。試合をクリアするたびにそんな各キャラクターの物語が展開していく。やめられない。
10月30日「CGの最先端」
・六本木ヒルズ・タワーホールにて、東京国際CG映像祭。東京国際映画祭の共催イベントとして3年前から行われているものだが、今年そのコンセプトが一新され、今の日本で一番元気なコンテンツをフィーチャーしていこうということになった。必然的にゲームやアニメや国産のデジタル・シネマをメインに扱うことになり、それで僕にもお呼びがかかって、ここ数ヶ月間ばたばたとお手伝いしていたわけだ。CG業界の動きを改めて勉強する良い機会になった。
・蓋を開けてみるとありがたいことにチケットは完売、行列が六本木ヒルズを取り巻き、開場を早めざるを得なくなるほどだった。今日のステージは、インディーズ特集から。デジタルハリウッド校長の杉山氏、コミックスウェーブ社長の竹内氏とディスカッション。まずは『ほしのこえ』と『スキージャンプ・ペア』の成功例を題材に、次には最近の注目若手クリエーターの作品群を上映しつつ、大いに話す。お客さんの雰囲気もとても良くて、大爆笑あり、大拍手あり、楽しかったです。特に杉山さんが「テレビなどではなかなか流せない……」と言って推薦して下さった木村卓史さん作『打つ娘サユリ』には全員(?)悶絶。
・最初に自分の出番を終えたおかげで後は客席からリラックスして観ることができた。CGプロデューサーの倉澤氏による『鬼武者』シリーズのメイキング解説。そしてプロデューサーの橋本氏ほかスクウェア-エニックスの方々による『ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン』プロジェクトの解説。他のどこでも観られないような資料映像が出てくるたびに、会場はため息に包まれる。みんな、ちゃんとわかってるのである。さらにQ&Aコーナーでは登壇者を困惑させるほど専門的な質問が続出。この観客の世代が、すぐに業界に入ってくるのだろう。
10月31日「あの煙の謎が明らかに!」
・東京国際CG映像祭、2日目。まずは、慶応大学SFCでデジタルシネマを研究しておられる稲蔭教授による、最先端の映像制作手法についてのプレゼンテーション。ネットワークを活用して世界各地のチームがコラボレーションする、あるいはカメラ付きケータイを使って制作する、などの試み。
・続いて、『スチームボーイ』のメインスタッフによる、メイキング解説。特に面白かったのは、大量の原画をパソコン画面上に並べ、速度をいろいろに変えながら切り替えてみせてくれたところだった。動きや質感のマジックのタネは全て原画に仕込まれていることがよくわかった。特にこのアニメは煙の質感表現が凄いのだが、驚いたことに、それもかなりのところまで手描きで行っているのである。
・CGに頼り切ると、それが表現の足かせになることがある。日本のアニメはCGを使いこなしながらも、必要とあらばいつでも手作業でその先を行ってしまう。欧米の映画監督はそれを観て「あんなすごい映像をCGで作りたい」と思うらしい。それが、CGツールの進化を促しているのだ。
・微に入り際を穿つ解説の直後、会場隣の映画館・ヴァージンシネマズにて『スチームボーイ』本編の上映があった。これはもう一度観るしかない。
・そしてこの映画館で『ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン』特別編集版の上映も行われた。これのために遠くから来たファンも多かったのではと思う。ゲームの『FFVII 』の2年後、あのキャラクターがあんなになってあんなに動いてあんなことやこんなことをする!! ファンにはもーたまらん映像である。終映後、感極まって泣きじゃくっている女性客もいたぞ。