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「外国人社員の所得税逃れ」は、なぜ見逃されてきたのか?

「外国人社員の所得税逃れ」は、なぜ見逃されてきたのか? 今年も年の瀬が近づいてきた。年の瀬といえば「年末調整」。某大手メーカーの営業部に勤めるA子さん(31歳)は、年末調整のために部内の書類を取りまとめていて、ある中国人社員の書類にふと目を留めた。その社員が、自分の親族を「扶養家族」として申告していたからだ。ちなみに親の所得は「推定年収30万円」とある。  A子さんは一瞬、目を疑った。というのもその中国人社員は、「親が会社経営者」ということで、日頃から羽振りのよさを知られた人物だったからだ。目にも眩しい金のロレックスは彼のトレードマークである。  アジア諸国と関係の深いA子さんの会社には外国人社員も多く、A子さんの部署だけでも7人の中国人が在籍している。A子さんは、ほかの中国人社員の書類もチェックしてみた。すると驚くなかれ、全員が親兄弟祖父母を扶養家族に入れていたのであった……。  貧しい実家にカツカツで仕送りをしている外国人労働者は少なくないが、その一方で、扶養控除を利用して所得税をほぼゼロに抑えている“似非ビンボー”な外国人も確実に存在する。こうした手口は今に始まった話ではないが、「ウチみたいな会社でもこんなことがまかり通るなんて……とショックを受けました」と、A子さんは嘆息。確かに、末端のサービス業に従事しているような外国人労働者ならいざしらず、名の知れた企業の正社員が堂々と所得税逃れとは。そもそも、人事部はツッコミを入れたりしないのか? 「会社の人事経理担当者が社員の扶養控除等の申告内容の是非を調べるということは、通常行われていません」と話すのは、公認会計士の小澤善哉氏。それは一体なぜ? 「ひとつには、扶養控除については、本人の申告のみで、証明書類の添付・提示が法律上求められていないという理由が挙げられるでしょう。また、源泉徴収や年末調整は、本来、税務当局がやるべき仕事を会社が代わりにやってあげているものなので、さらに踏み込んで、税務署の調査官のように調べまくると、会社として税務当局に対する過剰サービスとなってしまう、という意識が会社側にあるのでは」  日本人の従業員がマジメに税金を払っているのだから、それくらいのサービス精神を発揮してくれてもよさそうなものだが……。 「会社と外国人従業員との力関係は一概に言えませんし、会社が外国人従業員を甘やかしているというケースもそれほど無いとは思います。ただし、一般的に中国人などアジアの方々はお金に相当シビアですので、担当者がツッコミを入れると強烈なリアクションが返ってきて面倒な事態に発展することが容易に想像できます。法的な根拠も無いなか、担当者としてはあえて“火中の栗を拾う”必要は無い……という意識があるのではないでしょうか」  そんな理由で脱税が見逃されていたとすれば腹立たしい限りだが、ここで朗報である。会計検査院の平成25年度の検査では、外国人の扶養控除の問題が指摘された。平成27年度の税制改正では、その指摘を受け、「来年の1月以降、国外の親族を扶養控除の対象とする場合は、送金書類、戸籍謄本類、所得証明書類など一定の書類を会社に提示しなければならない」ということが定められたのだ。つまり、外国人社員の扶養控除受けまくりは“今年限り”になる可能性が高い。 「なお、今回の税制改正は国外の扶養親族の扶養控除が対象ですが、ゆくゆくは国内の扶養親族に対しても仕送りの事実などの確認が求められるようになるのでは、と戦々恐々している方々も多いようですよ」  ぜひお役所には、これからも“いい仕事”をしていただきたいものである。 取材・文/日刊SPA!編集部
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