「ひつまぶし」と言ったところで誰も「お~!」とはならない
――何回も行っている場所もあると思います。そうなると、情報が蓄積されてネタもどんどん深化していくのでは?
トモ:そうですね。ある町のステージだったら、町のローカルネタをやります。たとえば愛知県のある町に行くとしたら、愛知県という括りは広すぎるんです。「ひつまぶし」と言ったところで誰も「お~!」とはならなくて、町の地元のスーパーの話を入れ込むわけです。
テツ:そういったヒアリングで得た話はすべてネタ帳にぜんぶメモっていきます。ただ、書きだしたのは2年前で。それまでは書きとどめていなかったのでもったいないことをしました(笑)
――全国どの場所でも笑いを取れそうです。これが地方から引っ張りだこの理由だったんですね。
トモ:とは言っても、30代のころは単にネタを披露するだけだったんですよ。地方のステージでは50代以上のお客さんがメインのケースが少なくありません。それで、50代の人たちは私たちを求めてないだろう、と思っていたこともありましたね。
それで、どうしたらこっちを向いてくれるのだろう、面白いとおもってくれるのだろうと考えて色々やってみたんです。
――試行錯誤ですね。
トモ:たとえば大きな声を出してみたり。でも、大きな声を出せば出すほど誰も聞かなくなるんです。逆に、何も声を出さないほうがみんな注目して聞いてくれる、なんてことがあったりとか。
――たしかに、大人数での宴会カラオケなんて誰も聞いていないことのほうが多いです。
トモ:それで色んな経験をしながら、現在の形になりました。地方営業でいまの形になったのは40代になってからですかね。
――同じネタを全国各地でやるコピペ的な手法ではなく、毎回ローカライズして、地元の人やその企業の人の「内輪ネタ」を意識的に入れ込むわけですね。
トモ:林家たい平師匠は地方公演で、時間があるときは近所を散歩するそうです。さらに時間があればラーメン店に入り、地元の方とお話をされるんです。そこで得たエピソードを落語のまくらで話すんですよ。これはその地を歩かないと生まれないことですよね。
――その場でネタを調達するんですね。
トモ:方言もなるべく使うようにしています。もちろん、上手くはないのでヘタなりに、です。青森なら「なすてだべ~、なすてだべ~」って言ったり。
このような方言を交えたパフォーマンスは、小泉進次郎議員の地方演説と通底するところがあるかもしれない。両者に共通するのは、客に合わせたローカライズと内輪ネタを交えて相手を楽しませることだ。
どの場所でも、どの相手に対しても画一的な振る舞いをするよりも、相手の印象に残ることは言うまでもないだろう。
――基本的なステージの流れを教えてください。
テツ:1時間のステージでしたら、ネタ45分、歌15分という流れをつくります。30分の場合も同じ比率です。よく歌っていたのは『あずさ2号』ですが、最近はワーナーミュージックさんに所属しましたので、シングル曲のほかに、同じレコード会社のコブクロさんの曲を披露するケースも出てくるようになりました。かっこいい言い方をするとレーベルメイトですよね(笑)
――最初のパフォーマンスでお客さんを惹きつけているので、歌もみんな聞いてくれますよね。
トモ:中には「なんで最初から歌ってくれなかったの!?」と言ってくださるお客さんもいますね。歌とお笑いどちらも見てもらえるというのは私達の強みかもしれません。
――最新のシングル曲『泥の中の蛍/おんなじ空の下』も、ネタなしの本格的な歌謡曲です。ミュージックビデオもふざけていない。ジャージも着ていませんし(笑)
トモ:「おんなじ空の下」では客席のみなさんにも歌っていただいたりしています。先日は会社の社長さんまで一緒に歌ってくださったんですよ!
(YouTube:
https://www.youtube.com/watch?v=sdHTGYZzkJ4)
(YouTube:
https://www.youtube.com/watch?v=jRZQYLjkn08)
――今後はどのようなジャンルの曲を出される予定でしょうか。
トモ:実は浜圭介先生の作曲ですでに20数曲作っていただいているんです。これを出していきたいのと、カバーも出していきたいですね。6月にはNHKみんなのうたの子ども向けの曲『
とろろおくらめかぶなっとう』をリリースする予定です。
――最後に、地方でウケる鉄板のネタを教えてください。
テツ:山形でしたら私の横顔がちょうど山形のかたちになるんです。目のあたりが酒田で、喉ぼとけが米沢で、みたいに。山形では絶対やります(笑)
⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1127399
テツの横顔は山形県の形にソックリだという
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芸人の「成功」と言えば、キー局のバラエティ番組に出演し、レギュラーを勝ち取ることに収斂しがちな昨今。
その点で、テツandトモの仕事はまったく新たな分野を切り開いていることがわかるだろう。既存の市場の中でパイを奪い合うのではなく、自ら市場をつくり、その中で最適なパフォーマンスを披露する。試行錯誤の中で確立された彼らの芸は、一朝一夕で身につくものではないことは、「毎日が新ネタ」という彼らの言葉に象徴されていると言えるだろう。 <取材・文/日刊SPA!取材班 撮影/長谷英史>