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爪切男のタクシー×ハンター【第一話】「俺もお前も四天王」

 そんなことを思い出しながら、運転手に話しかけた。 「唐突な質問で申し訳ないんですが、運転手さんがもし四天王だったらどの神様を選びますか?」 「はい? 四天王? 神様?」 「四天王っていうと玄武、これは亀の神様ですね。あとは白虎、朱雀、これは鳳凰、火の鳥です。最後は青竜です」 「ああ、確かそういうのありましたね。聞いたことあります」 「子供の頃って、この中で自分がどの役割をするかで喧嘩したりしたんですよ。大人になった今、改めて聞いてみたいなって」 「なるほどですね……長い間この仕事してますけど、そんな質問初めてされましたね…」 「ちなみに私は怪しい宗教はやってないので安心してください」  運転手は敗色濃厚で長考する将棋の棋士のような顔でしばらく悩んだ後、先ほどより半音低い渋い声で答えてくれた。 「青竜ですかね、私、竜が好きなもんで。いや、恥ずかしいですね。いい歳して自分が青竜とか言うの」 「確かに恥ずかしいですよね。答えて頂いてありがとうございます」 「いや、本当に恥ずかしいですよ」 「でも普通のタクシーより青竜のタクシーに乗っている方が安心感がありますよね」 「………」  よく分からない沈黙が車内を支配した。 「それじゃあ、お客さんは誰を選ぶんですか?」 「玄武です」 「すぐに答えましたね」 「運転手さん、私は東京に来てもう十年以上になります」 「はい」 「色々な人との出会いと別れ、愛する女との別れを経験して、ガキだった私も少しは大人になりました」 「はい」 「派手な役回りより、玄武のような損な役回りこそ一番格好いいってことに気付いたんですよ」 「はい」 「背中に悲しみをたたえた男にしか玄武はできないんですよ」 「そうですか、あなたがそう言うのならそうなんでしょう」  ネオン輝く繁華街の光を抜けて、青竜のタクシーは玄武を乗せて中野に向かう。  タクシーを降りる時に「変な話をしてすいませんでした。でも楽しかったです。またお会いしたいですね」と礼を言うと「こちらこそ! でもお互いに神様ですから、あんまり会わない方がいいかもしれませんね、そんなにちょくちょく神様同士が会うのもおかしいですね」と運転手はにっこり笑った。遠回しに「面倒くさいお前はもう乗せたくない」と言われたのかもしれないが、運転手の最後の言葉は私の心に深く突き刺さった。確かにそうだ。実力のある四天王同士が仲良くし過ぎると威厳が保たれないし、その様子を見ている周りの人達もちょっと引いてしまうだろう。四天王は良い距離感でいることが大事なのだ。素晴らしい格言を頂いた。消え去って行く青竜のタクシーに玄武は深々と一礼をした。  それから私は、職場等でどうしても苦手な人と接する時は「俺もお前も四天王」と考え、うまく仲良くできないことは四天王の良い距離感が保てているのだとポジティブに捉えるようにしたらとても気楽になった。人間関係に悩んでいる方にお勧めの思考法である。 文/爪 切男 ’79年生まれ。会社員。ブログ「小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい」が人気。犬が好き。https://twitter.com/tsumekiriman イラスト/ポテチ光秀 ’85年生まれ。漫画家。「オモコロ」で「有刺鉄線ミカワ」など連載中。鳥が好き。https://twitter.com/pote_mitsu ※さまざまなタクシー運転手との出会いと別れを繰り返し、その密室での刹那のやりとりから学んだことを綴ってきた当連載『タクシー×ハンター』がついに書籍化。タクシー運転手とのエピソードを大幅にカットし、“新宿で唾を売る女”アスカとの同棲生活を軸にひとつの物語として再構築した青春私小説『死にたい夜にかぎって』が好評発売中
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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