更新日:2022年08月25日 10:13
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仏大統領選は「左右」ではなく「上下」の戦いである――ルペンとマクロン決選投票を在仏ジャーナリストが分析

仏大統領選は「左右」ではなく「上下」の戦い

 今まで、「右派」「左派」と書いてきたが、今回の選挙は、従来の「左右」の戦いではなく「上下」の戦いだった。左右の水平の関係では行われなかった。エリートと民衆の上下関係で行われたのである。  先にフィヨン氏の失速のことを書いたが、実はもっとも大きな原因は、個人蓄財である以上に、仮に合法であったとしても地道に働いている庶民には考えられないような高給を夫人や子供に支払い、それをおかしいと思わなかった感覚にあった。  フィヨン氏(共和党)は、「上」の候補であり、アモン氏、メランション氏、ルペン氏は「下」の候補であった。権力を交代で取っていた既成政党(いわゆる「システム」)ではないメランション氏(共産党・左翼戦線*)とルペン氏の政策は、移民に対するものを除いてほとんど変わらない。  EUについていえば、「上」は、いまのEUをさらに推進しようとする。「下」は根本的改革を求める。(メランション氏は従来欧州の根本的改革を主張していたが、今回は愛想をつかして、EU脱退と言い出した)  さて、第1回投票を見事勝ち抜いたマクロン氏はどうなのだろうか? まだ39歳だが、フランス最高のエリート校国立行政学院(ENA)を卒業し、ロトチルド銀行の幹部になり、オランド大統領の副事務総長を経て、財務経済大臣として2年間規制緩和を行った。「上」の人間であることは間違いない。彼もまた既成政党へのアンチテーゼであった。草の根の活動家たちは「下」の現実も知っている。

政治家たちはマクロン支持を続々と表明

 各局の選挙速報では、右も左も政治家たちは次々に決選投票でのマクロン支持を表明している。ルペン陣営は、マクロンをオランドの後継者だと規定し、「グローバリゼーションのEUかフランスか」、「人民か銀行か」、「私は人民の候補である」と「下」に向かって必死に訴えている。だが、本当に「下」の勢力なのかどうかはわからない。  決選投票では「共和国の奮起」といわれる民主主義の擁護、反極右の動力が働く。社会党のアモン氏が言った「マクロンは政治のライバルだが、ルペンは共和国の敵だ」ということだ。これは「下」においても変わらない。  いずれにしろ、2週間後の最終結果を待たず、この選挙は歴史的大事件であった。フィヨン氏、アモン氏の「システム」の崩壊は、アメリカで共和党も民主党も負けた、いや英国で保守党も労働党も四分五裂し霧散してしまったのと同じことなのである。 *)メランション氏は日本では通常「急進左派」と表示されるが、フランスで「急進左派」というと社会党政権とも連立している中道左派政党のことを言う。 <文/広岡裕児 写真/Avalon/時事通信フォト> 【広岡裕児】 ひろおかゆうじ ’54年、川崎市生まれ。大阪外国語大学卒、パリ第三大学留学後、フランスに在住し、コーディネーターおよびシンクタンクの一員としてパリ郊外の自治体プロジェクトを始め、様々な業務・研究調査・通訳・翻訳に携わる。著書に『エコノミストには絶対分からないEU危機』(文春新書)、『EU騒乱: テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書)などがある
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