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オナニーするため、愛する女の頭を撫でるためにこの手がある――爪切男のタクシー×ハンター【第三十二話】

 やがて、中学生になると、何を燃やしても心が満たされなくなっていた。それでも、ライターはお守りのように常に持ち歩いていた。  ある日、子供の頃から通っていた散髪屋のおばちゃんから面白い物をもらった。カットやパーマのカーラーを巻きつける練習に使うカットウィッグである。人間と同じぐらいの大きさの頭に髪の毛が付いている。簡単に言えば、リカちゃん人形の生首のような代物だ。「うちではもう使わないから、あんたの玩具にでもしな」と渡された。特に断る理由もないので、ありがたく生首を二つ頂いて帰った。自室にて、人形を愛でるように、生首の髪の毛を優しく撫で回す。つまらない。次に、自分の全裸を生首に見せつけたが、全く興奮しない。本当につまらない。散髪屋の真似事で、ハサミで実際に髪の毛を切ってみたが全然面白くなかった。 「燃やすか」  やはり「切る」より「燃やす」だ。私は自宅の庭に、さらし首のようにウィッグを設置した。散髪屋の話だと、このウィッグには実際の人間の髪が使われているらしい。自分の髪をお金に換えている女性もいるそうだ。そんな女性達には本当に申し訳ないが、まだ燃やしたことがない人間の髪の毛を燃やすことに、私は大変興味があった。  だが、いざ点火しようとライターを近づけたが、どういうわけかライターを握る手が震えてしまう。そのうちに息切れ、動悸も激しくなり、私はその場で泣き出してしまった。もし、このまま火を点けてしまったら、もう元の自分には戻れないような予感がして怖かったのだ。  数分間、生首とにらめっこをしていた視界が突然揺れた。庭に出てきた親父に、横顔を思いっきり殴られたのだ。人形の髪に火を点ける異常者になった息子の目を覚ますため、親父は鉄拳制裁を行った。そのまま馬乗りになって、私を殴り続ける。頬骨が折れそうな強さで意識が遠くなる。自分の身の危険を感じた私は、親父の脇腹にライターの火を当てた。 「がぁぁ!」  親父の野太い絶叫が響く。  熱いだろう親父、でも、俺に火の恐ろしさを教えてくれたのは親父だよ。あの日から俺は火という悪魔に取り憑かれてる。親父、俺を助けてくれ。  そんな思いが伝わったのか分からないが、親父は火に負けず、再び、私を地面に組み倒し、馬乗りになって拳を振り下ろし続けた。ただ、そのゲンコツはいつもよりもあたたかさを感じるゲンコツだった。火よりも熱い親の愛情がこもったゲンコツで、私は火の呪いから解き放たれた。家族と向き合うことや、つらい現実から目を背け、火に逃げていた弱虫の私は死んだ。ありがとう、親父、身体に火を点けてごめんよ。次に火を点けるのは親父を火葬する時になるだろう。その時はしっかり燃やすから安心してほしい。  大人になった私は、場末の風俗店にて、私のチンコをしゃぶろうとしていた風俗嬢に「俺のチンコを『火』だと思って。初めて『火』を見た人間のようにチンコをしゃぶってみて」と無理難題を吹っかけてたみた。彼女は一瞬考えた後、「……何これ? あったかい……」と私のチンコを両手で優しく包み込んでくれた。百点だ。そうだ、火は本来あったかくて、人を幸せにするものだ。昔の私のように邪悪な気持ちが混じってはいけない。あの風俗嬢は本当にいい女だった。
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タクシー運転手に過去を話す
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死にたい夜にかぎって

もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー!

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