中国に「習近平記念都市」が爆誕する! プロジェクトの裏に隠された意図、そして日本への影響は?
まさにエイプリルフールの日に、冗談のようなニュースが中国から入ってきた。広大な街を新設し、そこに首都機能の一部を移転しようというのである。習近平国家主席はいったい、何を考えているのか!?
【副都心「雄安新区」プロジェクトとは?】
4月1日に中国政府が公式に設立を発表。深圳経済特区、上海市浦東新区に次ぐ国家プロジェクトとなる予定で、初期段階の開発面積で100平方キロメートルになる見込み。発表後に不動産価格が爆騰し、当局は売買をすぐに禁止した
「まさに寝耳に水」――4月に突然、公表された「雄安新区プロジェクト」について、北京市の投資会社のアナリストは舌を巻いた。
「首都機能の移転・分散の噂は昔からあったが、候補地として名前が挙がっていたのは、重慶市や江西省、河南省などいずれも北京から離れた場所だった。しかし、’15年に北京市が同市通州区の副都心化計画を発表したため、移転先もそのエリアだと思っていた。プロジェクト公表前に雄安近辺に目をつけた投資家は誰一人おらず、場所の選定は政府の上層部のみで極秘に進められたのでしょう」
そんな巨大プロジェクトを秘密裏に進めることができるのは、一党独裁ならでは。安倍晋三記念小学校どころではない、“習近平記念都市”と言っても過言ではないのだ。評論家の石平氏は言う。
「昨年10月に行われた党重要大会の六中全会で、これまでに毛沢東と鄧小平にしか与えられなかった『党中央の核心』という称号が習近平に贈られた。しかし、習には反腐敗運動以外にこれといった功績はなく、経済は胡錦濤政権時と比べても大いに減速している。そんな習を国父とその後継者である両人と同列に扱うことには、党内部や国民の間からも不満の声が上がっている。そこで、深圳を経済特区に指定した鄧小平に肩を並べるために打ち出したのが、今回の計画でしょう。今秋に予定される党大会の目玉とするべく、急ごしらえで構想が立てられたようです。公共事業としては破格の規模ですが、インフラ投資に資金を投入して経済を潤そうというやり方は、中国で使い古されたやり方。数年後に超巨大なゴーストタウンにならなければいいですが」
⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1333607
中国事情に詳しいジャーナリストの富坂聰氏も、石氏同様「実績の伴わない習近平による政治的な意図がある」と認めながらも、是が非でも成功させると見ている。
「政治的な意義から考えると’22年の北京冬季五輪までには都市と呼べるレベルにこぎつけるでしょう。あと4年しかないですが、相当、尻を叩いてやるのでは」
ただ、雄安新区がひとつの独立した都市として存在する期間は、それほど長くはないと指摘する。
「北京や天津と、直線距離で百数十キロしか離れていないことを考えると、ゆくゆくは3地点すべてを結んだ『グレーター北京』を形成しようとしているのでは。そうなれば、東京を抜いて世界一のメガシティが誕生する」(富坂氏)
欧米メディアは、雄安新区が将来的にニューヨークに匹敵する規模の都市になると予測しているが、中国の都市計画に詳しい近畿大学経済学部の呉喆人准教授は、プロジェクトの必然性をこう指摘する。
「北京はあらゆる意味で成長限界に達している。首都として人口と資本の流入が続いた北京は今、交通渋滞や不動産価格の高騰といった問題を抱えている。北京市の就業者の平均年収は約165万円とされていますが、マンションは東京より高い。これでは産業発展に必要な人材確保が難しい。オフィス設置の初期投資も高く、新興企業の参入も阻害している。こうした状況を打破しようにも、経済・政治の既得権と対立して難しい」
こうしたなか、首都の“別館”を、まっさらな土地につくり上げようというのが今回のプロジェクトというわけだ。しかし、それだけなら雄安以外にも目ぼしい場所はいくつもありそうだ。
「実は雄安には、白洋淀という華北最大の湖がある。北京が頭を悩ませてきた水資源不足も解決されるのです」(呉氏)
さらにこの新区プロジェクトには“富の再分配”という狙いも。
「北京と、そこから100kmほど離れた工業・貿易の拠点である天津、そしてその周囲の河北省は3大経済圏のひとつ『京津冀経済圏』を形成している。しかし両市はともに直轄地で、周辺の経済を吸い上げてしまっており、河北省の経済は埋没している。そこで周辺地域に富を還流させようというのも目的のひとつでしょう。新区ではハイテク産業や第三次産業の育成に重点を置くとされているのも、これまで重工業依存だった河北省の産業転換を目指す試みと見ることができます」(同)
プロジェクトの裏に隠された意図と、日本への波及効果!
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1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売
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