IT業界の激務残酷物語「発見されなければ死んでいた」
アベノミクスで景気が上向いたと言われるが、賃上げやボーナスの増加でホクホク顔なのは一部の大企業だけ。その恩恵に与れず過酷な状況にあえいでいる業界は多い。共通するキーワードは「長時間労働」と「定額残業代」だ。介護、飲食、IT、アパレルetc.の悲惨な経営環境、労働実態をリポートする!
◆「1か月帰れない」はもはや当たり前。定額残業代制度も悪用【IT業界】
「誰にも発見されなかったら、そのままあの世行きでした……」
そう語るのは、大手IT企業の子会社でSE(システムエンジニア)をやっていた田中新太さん(仮名・34歳)。大学を卒業後、情報関連の専門学校に入り直し、社員10人程度の企業に就職した。最初仕事は忙しくなかったが、先の子会社に出向となってからが地獄だった。
「チーム制なのでプロジェクトが大詰めを迎えると、1か月、2か月帰れないのは当たり前。近くのサウナと会社を往復する生活でした。食事は全部コンビニのおにぎり。飲み物はコーラか缶コーヒーをがぶがぶと……」
最も過酷なのは、バグの発生原因が特定できず、しかも納期が差し迫っている時だという。田中さんは、1週間寝ないでテスト作業に没頭した結果、意識を失い、自分のパーテション内に倒れているところを数時間後に発見された。病院では過労による脳障害が疑われたが、CTスキャンに異常はなかった。しかし、不眠による不整脈に加え、抑うつ状態にあると診断され、チームから外された。
IT業界ではSEの長時間労働が常態となっており、月100時間、酷い場合は月200時間を超える時間外労働が横行している。SEは特殊な知識を要求されるうえ、一度作業に集中すると休みなくパソコンに向かうため、うつ病などのメンタル疾患に罹る者が後を絶たないという。
また、大半の企業で数万円程度の固定残業代を給料に上乗せする「定額残業代制度」を採用しており、その固定残業代を超える時間外労働を行っても、残業代が支払われないケースも多い。
ソーシャルゲームの製作会社の下請けでデバッグなどを担当していた島村洋祐さん(仮名・27歳)は、月140~150時間の残業にもかかわらず、基本給の21万円に残業代がプラスされたことは一度もなかったという。
「総務にメールで質問したのですが 『当社は専門業務型裁量労働制で、残業手当は毎月2時間分を上乗せしており、それ以外の手当はいかなるものも支給しておりません』という奇妙な文面でした」
専門業務型裁量労働制とは、厚生労働省が指定する専門性の高い業種に適用できるもの。労使協定で「一日の労働時間は8時間」だとすると、一日10時間働いても、8時間とみなして残業代が発生しない仕組みだ。
法令上、上司などから具体的な指示を受ける裁量権のないものには適用できないが、これを拡大解釈して末端のスタッフにまで適用し、ボロ布になるまで使い倒す企業は多い。ここまで来ると完全に確信犯である。
― なぜこの業界は、不景気のままなのか?【4】 ―

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