渡辺浩弐の日々是コージ中
第361回
4月28日「ごめんなさい」
・新刊『2999年のゲーム・キッズ完全版DX』が今日、刷り上がってきた……のだけど、僕の我が儘で、また発売日が伸びることになってしまった(5月15日)。読者の皆さん、そして講談社さん、本当に申し訳ない。この1冊は、100%で出したいんです。
・25日、KOBOカフェでTAGROさんと二人で、『2999』発売記念にサイン会的な何か、やります。えぐーい話をメソメソ語り合うことになりそうで、女人禁制にするべきという意見も出ている。
4月30日「ゴールデンウィークは」
・KOBOカフェの最終準備。両替にお金がかかることをはじめて知ったり、レジの特訓したり、渡辺浩弐UFOコーヒーを仕込んだり、乙さんが床の隙間に落としたスルメをかぎ針で拾い上げたり。もしお客さんが入らなかったらBERRYZを頭につけてBERRYZ KOBO CAFEにすれば大繁盛するかもと無駄なことを思い付いたり。
5月1日「カフェを開きましたよ」
・KOBOカフェ、講談社BOXファンクラブ会員向けに限定オープン。朝から中野ブロードウェイの廊下に行列ができていて、開店即満員で、ちょっと慌ててしまった。並んでいたのにすぐには入れなかった人もいて申し訳なかった。
・とても忙しかったので結局僕も一日カウンターに立っていた。延々とコーヒーを淹れていると神経が研ぎ澄まされていく。自分は一体何をやっているのか何をやろうとしているのか、そんなことはどうでもよくなっていく。カフェは、ついでに立ち寄る場所、かりそめの場所であり、目的地ではない。そこがいいのである。
第360回
4月24日「大人用ランボー」
・『ランボー 最後の戦場』試写。射撃や爆撃や肉弾攻撃によって、人間ひとりひとりの体が生きながら動きながら破壊されていく様子がとてもリアルに現出されていく。その技術は実に高度で、恐ろしさや気味悪さを通り越して美しさすら感じさせられてしまう。
・シリーズで初めて15禁指定になってしまっていた。その理由は、政府軍隊による村人の虐殺などミャンマー奥地で現実に起こっている状況をリアルに再現してみせたシーンのせいだという。この判断は、非常に残念。
・ミャンマーの現状に対する抗議メッセージは強烈だ。全体として、激しいプロパガンダ映画として仕上がっている。絶対的正義のなくなってしまった時代に、どの側に視点を置くか、という決意が、大きな創作行為になる。ハリウッドコンテンツは今後キリスト教的価値観を世界にプッシュしていくための兵力としても機能していくわけである。
4月25日「完成!」
・講談社BOXさんと創っているコンセプトカフェ『KOBO CAFE』@中野ブロードウェイ、内装が遂に完成。デザインと工事をお願いしたシエスタ社の皆さんが本当に良い仕事をしてくださった。素人なのにイメージばかり先行している僕らの、非常に漠然とした表現を一生懸命くみ取って、具体化しては何度も提案してくださったのである。
・個人的には、本やゲームを作るのとは違う面白さを知ることができた気がする。文学もデザインも、平面も立体も、ディテールへのこだわりが全体のたたずまいに影響することは間違いない。今後もコツコツいじっていきたいと思う。
4月27日「毎晩やりたいですね」
・そして、いよいよお披露目である。『KOBO CAFE』プレオープン。昼間は関係各社の皆さんを、夜は作家、イラストレーター、漫画家、デザイナーといったクリエーターの皆さんを招待。
・もちろん僕はコーヒー担当で、いれていれていれまくった。最終的には百数十杯をいれていた。ホットはKOBO CAFEオリジナルブレンド、そしてアイスは渡辺浩弐オリジナルのUFOコーヒーである。
・夜8時にお開きとなり、前途を祝して乾杯。その乾杯にお代わりを注ぎ始めてみたらほとんど全員が残ってつきあってくれて、それから飲みまくり喋りまくり、気が付くと、朝。楽しい!
第359回
4月18日「泣きゲー、ではない」
・早稲田大学の河合隆史教授は、VRやゲームといったテーマに正面から取り組んでいる優秀な学者だ(こういう領域においてはマスコミ受けを狙って結論を先に作ってから実験をしているインチキ学者も実に多い)。以前この人と話していて、ゲームの効用を実証するには効用のあるゲームを作ることがベストだ、という話になったことがあった。河合さんはそのテーマに取り組み、一つの成果を上げた。監修した『99のなみだ』(バンダイナムコ/DS)というゲームが完成したのである。
・さっそくテストプレイさせてもらった。「泣く」ことの癒し効果を重視し、プレイヤーごとの心理状態に合わせて感動系のショートストーリーを提示してくれるソフトだ。位置付け的には、2ちゃんねるで生まれたショートコンテンツ文化(極限まで短い文章で泣かせる/笑わせる技法)を延長したものと言えそうだ。今2ちゃんの泣ける系まとめサイトに癒されている大人はすごく多いのである。
・ネット上では膨大な名無しさんの実体験から生まれたエピソードが自然とセグメントされて浮上していくわけだが、ここではプロの作家陣が書きおろしている。そのせいか、システムにも制作者側の自意識が強く出ているように感じられる。物語が始まったら、早送りなどの操作はできなくなり、約10分間、画面上に流れる文字を設定された速度でじっと見続けさせられる。パソコンやケータイではなく映画の方向性をはっきり目指しているわけだ。
4月22日「文芸合宿同窓会?」
・カフェ予定地@中野ブロードウェイにて粛々と開店準備。してたら作家さんが次々と(乙さん、佐藤さん、滝本さん、西尾さん)いらしたのでここぞとばかりコーヒーいれまくる。みんな優しくて目が血走ってくるほど飲んでくれた。
・そういえば砂糖とかミルクとか出すの忘れていた。渡辺さんがあんまり真剣にいれてるからブラックで飲まなくちゃ怒られると思って、と言われた。
4月23日「ゲーム第一世代、老後に突入」
・ゲームのダウンロード販売が盛んになってきたおかげで、昔のクソゲーを探すのが楽しい。ただしクソゲーの味わいは当時の周辺事情と一体になって初めて理解されるものなので、語り部が必要である。雑誌とかテレビには無理かなあ。
・マガジングレート連載の『宮ちゃんの戯夢人生』(宮崎かずしげ)は面白いので単行本にして下さい。