渡辺浩弐の日々是コージ中
第371回
7月9日「口語体の今」
・ホラーアンソロジー・シリーズ《異形コレクション》の最新刊『未来妖怪』(光文社文庫)に寄稿させていただいた。「ブログアイドル♡ちょこたん♡の秘密(^_^)」という小説です。まぁ読んでみて下さい。
・さて、最近のブログやケータイ小説は、現在進行形でぺらぺら喋る形式で未来のことそして過去のことまでを叙述してしまう自由さを獲得している。言文一致運動というか日常語と文章を一致させるムーブメントが久々に起こっているとも言える。作家としてはこの土俵に立ってみたいと強く思うのだ。
・小説の仕事はどうしても今ここでやんなくちゃと思う試みを優先してやってるうちに人生が残り少なくなってしまう。どうしたものでしょう。
7月10日「密室としての中野ブロードウェイ」
・中野ブロードウェイは1960年代、東名高速道路の建築が予定より早く終了したため、その人材と資材を投入することによって一気に仕上げられた建物だ。エスカレーターの角度を間違えたため1階と3階が直結してしまっていたり、ほとんど使われていない地下階があったり、とても不可解な構造になっている。全体の正確な図面は、存在していないようだ。
・今日はここに、ミステリー作家の北山猛邦さんがやってきた。物理トリックの第一人者として知られるこの人に、この建物の構造を詳しく案内。
・ちょっとだけばらしてしまうと、この空間でいかなる完全犯罪が可能かというシミュレーションをお願いしているのである。楽しみにしててください。へへへへへ。
7月11日「読者サービス」
・講談社BOXから、作家と読者が集まるイベント「KOBO総会」を手伝ってほしいとの依頼。出演者や来客に出すコーヒーを作りに来てくださいと。よし、がんばるぞ。来場予定の皆さん、お楽しみに。
・ところで、もしかして、僕も小説家であることは忘れられてないかな? まあいいか。
第370回
7月4日「ニコニコしてる数千人」
・ニコニコ大会議。行ってみた。生放送システムも日進月歩しているようで、1万人+αのアクセスにびくともせずに盛り上がっていた。
・生放送の映像が会場にもフィードバックされる。つまりステージ上の様子が、横の大画面にそのまんま映し出され続け、そこにはもちろんコメントが乱舞するわけである。ステージよりもそれに対する突っ込みコメントの方に満場が湧いたり。この一体感はすごかった。
・ドワンゴ/ニワンゴは2ちゃんねるやニコニコ動画の風を受けて未来的な経営指針を持つに至っている。全く儲かっていないのに事実上の成功宣言ができることは、古い著作権システムに縛られた旧資本主義の因習からすでに解き放たれていることでもある。実はこれ、健全なことなのかもしれない。
・生放送だけでなく素材バンクやai sp@ceとの連携など、うまく稼働し始めたらマスメディアにもものすごいインパクトが及ぶ。このことはごたくを並べて説明するよりいろいろ勝手に実践してみたいと思っている。
7月5日「足をひっぱれ」
・フィンスイミングというスポーツがある。足ひれをつけてプールを泳ぐものだが、それだけで通常の約1.5倍のスピードが出る。どれくらいすごいかというと、普通の人でも、オリンピック自由形の世界記録くらいのスピードで泳げるわけである(ただし、鍛えてないとすぐに膝関節ぶっ壊れるが)。
・つまりですね、フィンつけたくらいに足が大きければ、ろくなトレーニングしなくても金メダルとれるかもしれないということになる。イアン・ソープの足のサイズが35センチらしいが、50センチくらいあればフィンと同じになる。逆纏足みたいなことをして足をでかくするとか、新開発の水着で足の甲の肉を思いきりひっぱるという方法がある。日本の水着メーカー、どうですかこの手で。いや足で。
7月6日「癌消える」
・週刊文春の記事で、丸山茂雄さん(元ソニー・ミュージック社長、というかSCEすなわちプレイステーションビジネスを立ち上げた丸さん、として知られている人)が末期癌を患っておられると知り驚く。そういえばブログ更新も止まっていた。
・ところがその記事を最後まで読むと、癌がいつのまにか消えてしまってすっかり元気になられていたという結末が。よかった、よかった。こういう立ち位置の人がこれから音楽やゲームの世界に良い言葉を与えてくれることだろう。
・この人と始めて会ったのは僕がソニーにゲームビデオの企画を持ち込んだ80年代後半だった。既に総白髪だった当時の彼の年齢に今自分が達していることに気づいた。ところで以上の話に関係あるかどうかはわからないが、丸山さんはかの丸山博士(@丸山ワクチン)の息子さんである。
第369回
6月29日「さようなら」
・カフェ最終日。丁寧に丁寧にコーヒーを淹れる。ここで缶詰になっていたTAGROさんが、『ファウスト』掲載用イラストを遂に完成したその瞬間、とうとう閉店時刻になった。
・楽しい2ヶ月間だった。海外から来てくれた人もいた。バイトして交通費作って地方から来てくれた学生さんもいた。ここで、しっかりチャンスを掴んでいったクリエーター志望者もいた。この時代、様々な機会は手を伸ばせば届くところに提供されるもので、なーんだ簡単じゃないかと思えるようなものになっているわけだが、しかしぼんやりしてると、それはあっという間に消える。
6月30日「梅雨」
・歩く。あじさい畑に遭遇。今年はかたつむりが多くてなごむ。
7月1日「モビルスーツの原点」
・『スターシップ・トゥルーパーズ3』試写。第1作を監督したポール・バーホーベンが製作に回り、これまで脚本を担当していたエド・ニューマイヤーに監督させている。CGで作り上げた巨大昆虫と未来軍隊の戦闘シーンを見せつけるために作られた感のある第1・2作と違い、ハインラインによる原作『宇宙の戦士』にかなり近い設定で作られている。特に未来の軍隊や社会について原作に書き込まれたものをみっちりと物語に取り込み、映像化している。
・映像はもちろんSFX駆使の豪華なものなのに、1950年代のB級SFの雰囲気が濃厚に漂っている。派手に血肉が飛び散るし、無理矢理オッパイ出すし、メカやモンスターのデザインはどれもすごく子供っぽい。どのシーンも良い意味で安っぽく、品がない。新人監督ニューマイヤーは、ポール・バーホーベンの真骨頂はB級SFに真剣に取り組む姿勢にある、と解釈したのかもしれない。
・映像は日本のアニメからのインスパイヤも多いが、ただしパワードスーツはガンダムのモビルスーツのぱくりではない。実は原作で既に提示されているのだ。そもそもガンダムの制作スタッフがこの原作小説からインスパイヤしたものらしい。