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渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。

第500回

9月13日「『プラトニックチェーン』無断配信につきまして」

・このツイートもとても大きな反響を頂きました。 exciteさん他各ニュースサイトにも取り扱われていましたので、ちゃんと説明しておこうと思います。

・僕の原作によるアニメーション『プラトニックチェーン』が(株)エイシスが運営している『DLsite.com』というサイトで無断でダウンロード販売されていました。
この事実はツイッター上で、フォローしている方の書き込みから知ったのですが、それに僕が返信したら(=著作権者にばれたことが明らかになったら)、該当の販売ページはすぐに消されました。
ツイッター経由でDLsite.com を名乗るアカウントから、「もし何かあればお電話やメールでお気軽にお問い合わせください(一部引用)」という@コメントをもらいました。
「弊社は販売店で、弊社へデータを納品された納品元から著作権者様へお話がいくのが本来かとは存じますが(一部引用)」とのコメントもありました。

・ツイッター上のいきさつはこちらにまとめられています。ニュースサイトなどで取り上げられて以降、取材やコメント依頼、それからご心配くださった方々からの連絡をたくさんいただいたのですが、きちんと法的措置に進むつもりでしたので、伏して対応を控えていました。
しかし、ことは僕だけの問題ではなく、これは公益性のある課題と言えますので、広く一般にも関係する部分に限りまして事実をきちんと書いておこうと思います。
同様の被害にあっていながら気づいていない、もしくは泣き寝入りしている人が、多くいる可能性があります。そしてこの状況は、放置すると、大変な事態になると僕は危惧しているのです。
個人と大企業の力の差は致し方ないレベルであるため、正直言って味方がほしいという思いもありますが、それだけではありません。作家、漫画家など著作権者だけではなく、出版社や映画会社、ゲームメーカーなど、コンテンツ産業に従事されている全ての方々に、絶対に気づいてほしいことがあるのです。

・僕はまず、この「弊社は販売店」という逃げ口上に驚愕しました。歩いていたらいきなり殴られたので、現行犯でそいつを取り押さえたら「ぼくはどっかのだれかに殴れと言われたからやっただけです、だからぼくには罪はありません、文句があるなら、ぼくにそんなことを命令したどっかのだれかさんに言ってください」と、言われたとしたら、あなたはどうしますか。

・それ以降、正式な報告も謝罪も頂いておりません。つまりこれが常識と思っておられるようです。
すなわち、すでにそういうビジネスモデルが成立している可能性があるということです。コンテンツ業界の皆さん、どうでしょう? 僕は、これはとんでもないことだと思っています。

・世に出ているアニメ、のみならずマンガやゲームや小説を、著作権の確認をせずにどんどん並べ、クレームが入った場合だけ謝罪して削除する、というものです。その際「当方はあくまで”お店”でして、責任は”持ち込んだ人”にあります」という言い訳で逃げ(”持ち込んだ人”の素性はたいてい不明)賠償は行うとしても収益に応じた金額のみ。
となると、全くノーリスクで、巨大収益のビジネスが成立するわけです。
誰でもやれることですし、許されるのであれば誰もがやるでしょう。
DVDで発売される映画もテレビで流れるアニメも、毎週発売される少年マンガ雑誌も、どんどんアップロードしてしまう、それで課金しまくって稼ぎまくる、もし見つかったら引っ込めて、おしまい。
これでは日本の著作権ビジネスは崩壊します。映画会社も出版社もつぶれます。

・殴られたら、まず警察行きましょう、というのが普通の流れです。それがなされていないのは、現実的には、著作権者が自分の著作物を勝手に使われていることを知る可能性自体きわめて低く、また、たいていの個人著作者は弁護士に相談して法的措置をとるノウハウを持っていないからだと思います。
企業の場合はどうでしょうか。我が国においては懲罰的な賠償や名誉毀損への賠償が極めて低く判定されます。会社というものは経済効率に従って動かざるを得ないわけですから、労力や弁護士費用と天秤にかけて割に合わない訴訟は起こさないのではないでしょうか。
考えれば考えるほど、このビジネスは「やったもの勝ち」となりかねません。
ですから、万一発覚した場合には相当の罰を受け反省してもらうこと、かつ、耳目を集め、以降社会的監視下に入ってもらうことが、必要と考えます。

・まずは僕のような立場の人間が動いて、きちんと問題提起をするべきだと考えた所以です。
僕は、貧乏な一個人です。ただし逆に、お金を必要とする人間でないということは強みです。民事上の損害賠償にはそもそもほとんど期待していないのです。
この事態を是正する方法として、刑事事件として成立させることを、今は考えています。著作権侵害は10年以下の懲役刑や3億円以下の罰金刑などの重い罰則が設けられている重大な違法行為です。
意図的に法を踏みにじり、制作者を踏みにじって稼いでいる人がいるなら法に従い、罪をつぐなってほしい。二度とそういう行為を行わないことを約束してほしいのです。
そのリスクを業界全体に認識してもらうことによって、違法行為は激減することと信じます。
毅然とした措置をとった場合、裁判所はどう対応してくれるでしょうか。我が国の著作権ビジネスを崩壊させるかどうかの瀬戸際で、司法の判断を仰ぎたいというのが今の僕の考えです。

・そしてこの機会に、ネット上での著作権管理について、また事件への対応策などのノウハウをまとめようと思います。インデペンデントで創作・発表を行っている個人作家さん達が、今後はお金や経験値がなくても簡単に対処できるくらいの情報は、提供していこうと思っています。

第499回

9月12日「小説ロボット」

・このツイートも反響があったので、補足する。というかこの件については星新一トリビュート・アンソロジー『ひとにぎりの異形』に収録いただいた「これは小説ではない」を読んでもらいたいので、まず、その中からの引用です。

………………………………………………

 文章を書く作業とは、デジタルに定義すれば「次の一語をどう選択するか」ということに尽きる。自動文章作成プログラムの基本は、簡単なのだ。その原始的なものはすでに実用化されている。携帯電話でメールを打っている人ならわかると思う。最近のケータイは何か言葉を入力するとそれに続く単語を先読みして、提示してくれる。人名の後には「さん」をつけてくれたり、「あけまして」と入れたら「おめでとうございます」と勝手につないでくれる。
 あれに人工知能の機能をつけ、桁外れに高度化すればいいだけなのだ。ただし意味のあるストーリーを書かせるには、普通の技術で作るとしたらスーパーコンピュータが数万台は必要になる計算になる。
 そこで私には画期的なアイデアがあった。データを、インターネット上からも取り込むのである。選択する言葉及び展開パターンをネット上のありとあらゆる文章の中から拾い上げてくるわけである。
 ネットは巨大なる言語データベースだ。そこには人類のあらゆる言葉が無差別に入力され続けている。
 古今東西の名作文学にも、メールによるあらゆる人々の日常会話にも、「物語」あるいは「物語のタネ」がある。
 タネがあれば、それがどんな木になるものか知らなくても、ただ水をやれば育っていく。そういう概念だ。
 私はこのシステムを完成し、特許を出願した(だからこれは特許公報で公開もされている……「データベースの更新方法,テキスト通信システム及び記憶媒体」出願番号:特許出願平11-3175211)。

………………………………………………

 簡単に書いているが、実はこれでもまだ、小説にはならない。ある言葉の次に続けられる言葉はこのシステムの基本プログラムによって複数のものが抽出されてくる。その中でどの言葉を選ぶか。最後まで機械まかせにしてしまうと、無味乾燥な、学術論文のような文章しかできないのである。ここに人間のセンスが求められる。
 物語性のある文章を作るためには読み手を驚かせること、時に裏切ることが必要である。それが、作家の個性というものだ。
 個性とは、作家の思考ルーチンをアルゴリズム化することによってデジタルに定義される。
 技術的にはそのためにさらに2、3の飛躍が必要だったものだが、とにもかくにも作り上げた。ところがそれから特許として認められるまでに9年もの歳月がかかったのである。アルゴリズムを法律文書にして提示するのが大変で、弁理士さんが優秀で本当に助かった (今ネットに上がっているのはそのほんの一部なので全文見たいという人は特許庁にどうぞ)。

・ここから先の話は、チューリング・テストが終了してから、改めて。

第498回

9月9日「自分の脳波をみる」

・メルマガをやってみないかという話を立て続けに頂いて、ありがたく思っている。僕は当面やるつもりはないけど、小説以外の長い文章も読んで頂けるニーズがあるなら、どんどん書くべきだと考えた次第。取っかかりとしてツイッターで短くつぶやいてみて反響があったテーマについて、この場所(『日々是コージ中』)で、改めて長く書き直していきますね。

・今日は、脳波の話。ちょっと前のことになるけどニコニコ生放送の番組『ゲームのじかん』にて、出演者全員『necomimi』を装着した状態で『人狼ゲーム~牢獄の悪夢~』をプレイしたことがある。脳波で動く頭上のネコミミをお互いに見ながらのだましあいが、なかなか面白かった。

・それ以来この『necomimi』でいろいろに遊んでみている。「集中」モードでネコミミがピンと立ち、「リラックス」モードでくたりと寝る。けど集中してても緊張しすぎるとよくないし、リラックスしても寝ちまったら意味ないわけで。この二つを両立させた状態の「ゾーン」というモードがあり、両耳が激しくぱたぱた動く。我を忘れて何かに没頭してる瞬間だ。例えば囲碁の達人が盤面に集中している時や、天才ピアニストが演奏に集中している時の状態だ。このサイコーの状態を意図的に作り出す訓練を、このツールで、無意識のうちに、やってけるわけである(僕の場合、ある匂いを思い出すことで割と簡単にゾーンに入ることがわかった)。

・ごく普通の日常の中で脳波を取るという試みが可能になったのは1990年代初頭のことだ。『necomimi』は、あの頃ビジョナリスト達の間で思い描かれていたイメージが現実化した、そんなSF的ツールの一つに思える(当時のことは『モニター上の冒険』という本の中で書いたのだけど、絶版で、僕の手元にもない)。

・1980年代すでに、ドラッグやコンピュータの脳への影響を客観的に調べるために、脳波計を使う試みは始まっていた。しかし脳波を取るために、電波干渉のないセッティングと、微弱電流を走査するための大型システムが必要だった。地下の閉鎖実験室で、頭を剃り上げた被験者の頭部に針を刺さなくてはと言われたものだ(そんな状況下では被験者の気持ちはすでに乱れているわけで、普通の脳波がとれるわけがない)。

・1990年頃、僕は超能力の勉強にはまっていた。その過程で、東海岸のUFO コンタクティーグループがチューニングのために面白い脳波測定器を使っているという情報を得た。『イーバ(IBVA)』だ。前頭葉に発生する電流の周波数に注視し、ただしそれについては極めて正確にサーチすることによって、パーソナルコンビュータ(MAC) とヘッドバンドだけで、驚くほどリアルな脳波測定を可能にしたツールである。

・イーバの発明者は加畑将裕氏という日本人の学者だった。加畑さんはニューヨーク在住だったが、その方面の人々から紹介してもらい、来日した折にアポイントをとることができた。日本大学の研究室に呼び出されて、その場所の設備でこのマシンを体験させてもらった。その時、加畑さんから、MITから戻られたばかりの杉山さんという学者さんを紹介された。このイーバの機能について、可能性について、二人から詳しいレクチャーを受けることができた。

・イーバのすばらしさは、刻一刻と変化する自分の脳波を、まるで鏡で自分の表情を見るように、画面上で、立体の、フルカラーの「波」として確認できることだ。気持ちが変化すると、波も、生きているようにうねうねと動く。そしてそのデータをウォークマンのような携帯機で音声データとして収録しておくこともできた。一日つけっぱなしにしておいて後からデータを再生すると、何時何分頃、どこにいて何をやっていた時はこんな脳波だった、というようなことが確認できるのだ。あの人と会っていた時はとても悪い脳波だった、ということは自分はあの人のことを本当は嫌いだったのだ、とか。そういうことが確かめられるわけである。

・鏡を見ながらいろいろな表情を試してみるように、画面の波を見つめながら、自分の脳波をコントロールするトレーニングもできる。落ち着いたり集中したりすることだけではない。例えば、オーガズムの瞬間の脳波をとっておいて、その波の状態を意識的に再現することができるようになれば、いつでも、どこでも、脳内だけでオーガズムを感じることができるようになる。

・さて杉山さんは長髪のヒッピー風の若者で、コンピュータやネットについての知識がとんでもなく豊富だった。かつ人格者で、イーバのことだけでなくパーソナルコンビュータやネットワーク、そして当時マルチメディアという言葉で語られていたデジタルコンテンツの様々な可能性について、とてもエキサイティングな話を聞かせてくださった。その杉山さんが、後のデジタルハリウッド大学長、杉山知之さんだ。

・当時はニューエイジ・ムーブメントの延長にマッキントッシュ文化を捉える人々も多くいて、加畑さんはそういう人達の間のカリスマだった。さて今はどうしておられるのだろうと検索してみたら、ご健在だった。当時から主宰されていたサイキック・ラボという拠点で、研究を続けられている。『イーバ』もきっちりバージョンアップし続けておられるようである。

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