第二の過払い訴訟はパチンコになるかソシャゲになるか……
パチンコとは比較にならないほどの高射幸性で、底なし沼のような集金マシーンと化すソシャゲのガチャ。厚労省が「のめり込む依存症患者が530万人」とはじき出して以来、風当たりが強いパチンコの背中を、ハイペースでソシャゲが追いあげている。やまもといちろう氏は、集団的消費者訴訟も視野に入れる。
やまもといちろう……ブロガー、投資家、イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役。村上春樹氏、あだち充氏、出川哲朗氏らと並ぶ著名ヤクルトファン。歯に衣着せぬ発言で多くの問題を提議。ワイドショーなどでもコメンテーターを務める
やまもといちろう:今後、行政ののめり込み対策において、ソシャゲは上位にくるはずです。業界団体の対応を待って、といっても、2012年のコンプガチャ問題で結局根本的な対策を打たれることはなく現在に至ってしまった。今回もそうなって警察が介入するとなると、風営法を改正して無店舗型ゲームセンターの議論が再燃しかねません。あくまで冗談の話ですけど、またサーバーの運用時間の限定しろとかいう話になると、18歳未満が22時以降ゲームできないとかいろいろでてくるわけですよ。
木曽崇:ソシャゲ規制に関して、警察庁が風営法の無店舗型ゲームセンターの枠組でやるってことになると、ソシャゲ業界からしてみるとしんどいですよね。対抗馬で例えばソーシャルゲームやネットゲームだけを対象にした新法を作るって話になると、これは産業法になるので、経産省所管なんですよね。なので経産省が産業側に推されて後追いで何か出してくる可能性はなくはないけど……。
やまもといちろう:パチンコが実際そうだったと思うですけど、産業法として振興するのはもちろんいいことなんですけど、アフターで警察が対応できる法律を考えましょうっていうのがまず対抗にでてくるんです。これってアクセルとブレーキの関係なんですけど、最近になってこの手の話に消費者行政が出てくるようになった。これはなんでもありの世界で各省庁横断のオールジャンルです。消費者が騙されたと思ったらそれが正義なんですよ、そこに必ず何かしら消費者を騙す欺瞞があるので。今ある依存症対策だとか、消費者側の問題って厚労省がきちんと代弁してきたんですが、適格消費者団体が出現し、今まで我々は違法なもので遊ばされてきたのかという主張をし始めたときに、業界大激震ですよね。
POKKA吉田:まぁへたしたら集団訴訟もありうるだろうね。
やまもといちろう:それは場合によっては大返還訴訟ですよ。みなさんいくらいくら使いましたって資料も出してきて。昔から食品に関してあったのは、消費者が主張してる金額に関して一定の割合を返金しなきゃならなくなります。
POKKA吉田:レシートなくても?
やまもといちろう:関係ないです。騙されて買った商品でこういう被害をこうむったって話ですから。
POKKA吉田:ということは、被害者だと名乗る人の中には本当は被害をこうむってないやつがいっぱいまぎれてくるよね。
やまもといちろう:北海道の西友で偽装牛肉の返金騒動があったときにヤンキー大集合でしたよね。おまえ絶対この店の牛肉食ってないだろって連中が相手でも、返金しろって言われたら返金しなきゃいけないんですよ。これが消費者問題の恐ろしいところ。消費者金融のグレーゾーン金利を巡る訴訟の例でもわかるように、裁判でうっかり変な負け方をしてしまった結果、借金返済が終わっていても、消費者金融会社は遡及して受け取りすぎたお金を返さないといけない。これ大波乱ですよ。
POKKA吉田:さっきのグラブルの確率0.02%が0.04%になっていたのは、たとえこれがホントの確率だとしても、消費者が感じる主観確率とは全然違いますから、ソシャゲは消費者問題の真っ只中ということ。パチンコだって同じことです。
木曽崇:典型ですよ典型。パチンコも「著しく射幸心を煽る可能性がある広告はダメ」という言い方で規制されています。「著しく」って法律用語として何? 誰がどうやって決めるの?って話にしかなんない。
POKKA吉田:だからエロと射幸性は基準は実は曖昧だってよく僕は言うんですけど。風営法の広告宣伝規制の第十六条だったかな、正常な風俗環境をやってしまうような広告宣伝はダメっていって、著しく射幸性をそそる恐れのある広告宣伝はだめって業界ではいってる。広告宣伝はなにしたらダメってのはわからない。正常な風俗環境を阻害するだったかそんなものがかいてある。曖昧な話なわけですよ。
やまもといちろう:これがFTC(アメリカ連邦取引委員会)になると厳密な定義がありますし、例えばソシャゲの規制だと、子供については1日あたり20ドル以下。偶然が勝敗を左右する確率が何%以上になると賭博にあたる、ということが州によって厳格に決められています。
木曽崇:ファンタジースポーツが賭博か否かはまさにそこを争ってる。技術介入性というか、野球知識が何%くらいゲーム結果を左右するかっていう。
やまもといちろう:基本的には偶然が50%を越えるとアメリカではもう賭博になっちゃうんで、技術的関連要素をいかに高く見積もるかでモメてますよね。ただ、もともと高くないから、勝ち負けがあって楽しい。知識ないヤツがみんな負けてこれつまんねえってなると、ゲームとして面白くないので、一定の割合で結果が偶然に左右されるようになっています。
木曽崇:アメリカ各州で訴訟が起こってて、ある州ではこれはギャンブルである、またある州ではギャンブルでないって、州ごとに違うんですよ。但し、日本の賭博規制は技術介入性の比率というのは考慮しないので、完全情報でやりあう偶然性ゼロの囲碁将棋とかであっても、賭け将棋、賭け囲碁はだめなんです。基本的にゲームに関係するお金のやりとりは日本ではダメってことになってるから、日本のソシャゲの着地点はまだ見えないですよ。へたすると定額上限制になったりとか、文字通り保通協みたいのができたりとか、警察庁としてはただの業界ガイドラインでは終わらせたくないと思いますよ。業界ガイドラインなんか作ったって、どうせまた被害者問題が起きて、適格消費者団体から訴えられてややこしいことになるんで。
今年3月、海外のネットカジノでプレイした日本人が、賭博容疑で初めて逮捕された。日本語のアフィリエイトブログで「合法だ」と騙されて集客された彼らは、消費者被害の当事者でなおかつ犯罪者。消費者保護の大きな時代の潮流の中で、ギャンブル界は今後どう立ちまわるのか。
POKKA吉田:被害を受けたと主観で感じた人がいたら問題なんですもんね。
やまもといちろう:実際、返金に関する仮処分の申し立てがいっぱい出ているようですが、みんな仮処分の決定が出る前に返金で合意していると見られます。中には3年間で7000万円使っている人もいて、それはそれでどうなのって感じですが、ソシャゲ業者のほうも返さないとヤバイって思ってるんですよ。第二のサラ金過払い訴訟はパチンコになるかソシャゲになるか。パチンコ台の違法釘のほうが大問題なので、ソシャゲのほうがまだましだと思います。
木曽崇:クレサラ弁護士はこれからヒマになるからね(笑)。
やまもといちろう:パチンコで消費者問題が勃発する可能性はいっぱいありますよ。だって今まで法的に正しいといわれてて、警察の庇護のもとで開発が行われていたパチンコ台で遊技をしてお金を突っ込んできた人たちにとって、実はその遊技をしてきた台が長年にわたって不正でしたという話ですから。宇都宮健児先生が出現してしまいます。
POKKA吉田:法律で規制された適法の範囲ではない状態で遊ばされてたんだから、じゃあその金返せとは言えるよね。
やまもといちろう&木曽崇:言えます。
木曽崇:同じような構図が僕の専門側でもありまして、ネットカジノがまさにそのド真ん中なんですよ。今年3月10日に、客が初めて摘発されました。
POKKA吉田:京都府警ね。
木曽崇:すごいねサイバー犯罪対策課。がんばったなぁって。
やまもといちろう:あれはよくやった。感動した。
木曽崇:まだあれは摘発されただけだから、罪は確定してないんだけど。これから起訴されて、日本から海外のネットカジノに接続してプレイすることは違法であるってことが確定した時点で、多くのアフィリエイトのサイトの罪が改めて問われることになる。そこでは、日本語で「これは日本の法は適用できません」って謳って日本人の顧客を集めて、海外のネットカジノでプレイさせてキックバックをもらうっていうビジネスモデルをしてるんですよね。それが幇助、共同正犯、もしくは博徒結合図利罪になるのか。
POKKA吉田:普通に考えたら共犯か。
木曽崇:しかし、利用者側からしてみたら、おいおい、お前らが日本の法律が適用されない(=合法)って言ったから我々は使ったんだと。でもそれが「実は違法でした」とされてしまった状況っていうのは、パチンコ遊技機における不適合機とある意味同じで……。
POKKA吉田:あ、似てるかも。しかもパチンコホールは、そんな状態なの知らなかったってウソと言われてもしかたのないことを言ってきたわけですからね。遊技機仕様の詳細を知ってるホール関係者とかは普通に知っていたもん。ネットカジノでのプレイを違法ではないと説明していたアフィリエイト業者たちも、たぶん客に向かってはオレら知らんかったぜっていうんでしょうね。まさに似てる。
木曽崇:まさにど真ん中。オレたちも騙されていた、っていう言い方。
POKKA吉田:俺たちは被害者だ! と。
やまもといちろう:後からいろいろ証言が出てきてひっくり返るんでしょうね。こういうメールのやり取りをしていた、つまりお前らは事前に知っていたのに対策を怠ったのではないか、とかね。
POKKA吉田:そうそう(笑)。
木曽崇:今、あっというまにネットカジノのアフィリエイトサイトが閉鎖されてますもん。すごい勢いで(笑)。構図としては完全に日本市場を狙って作られた海外のネットカジノがあり、この業者が日本側に販促担当を立てて、これはアフィリエイターであってうちの社員ではないという体で、動かしています。警察庁が今回動いた端緒は、アフィリエイターがグループという形でネズミ講的に多段商法しているところ。自分が紹介したお客さんが使ったお金の何%が、キックバックでどんどん上にあがっていくと。もうマルチ商法と一緒です。
やまもといちろう:もうメチャクチャですよね。
木曽崇:この1年ぐらいアフィリエイトグループの活動がムチャクチャ大きくなってて。全国でセミナー行脚してるわけです。
POKKA吉田:木曽さんはそういう連中に正面から抵抗しとったわけ?
木曽崇:僕はアンチネットカジノの筆頭格ってことになってますし、彼らからしてみたら悪の親玉なので、ウチの業界潰しにきてんだろと(笑)。今回の逮捕劇はざまぁみろですよ当然。でもネットカジノで難しいのは、ネットカジノ業者やアフィリエイト業者たちはともかく、プレイヤーは被害者であり犯罪者でもあるんですよね。日本の法律は適用外だと騙されてプレイしていたんだけども、一方で賭博罪ですから。知らなかったかどうかで一定の情状酌量はあるかもしれないけど、知らなかったから無罪になることはない。そういう意味では彼らは違法な賭博者であり、一方で違法でないといわれてプレイしてしまった被害者。そういう二重構造の中にいるってのが実態かな。