更新日:2017年11月15日 18:02
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北朝鮮ミサイル危機で頼るべきは自衛隊でなく地方自治体【評論家・江崎道朗】

現行憲法では、ミサイルは防げない

北朝鮮ミサイル危機で頼るべきは自衛隊でなく地方自治体【評論家・江崎道朗】 せっかく法律ができたとしても自治体と病院、消防、警察、学校などが連携して訓練を実施し、問題点を洗い出しておかないと、いざというとき機能しない。  例えば、ミサイル攻撃を受けて多くの負傷者が出た場合を想定して、大量の医薬品も備蓄しておく必要があるのだが、そうした予算は誰が出すのか。政府としては、新規予算を組む必要があるだろう。  どちらにせよ、避難訓練などを実施し、国民保護体制を構築する責務があるのは地方自治体の首長であり、首長を動かせるのは地方議員だ。果たしてその自覚がある地方議員がどれくらいいるのだろうか。  これまでは「政府から具体的な指示がないと動けない」という言い訳が通用したかも知れない。が、4月21日、政府は明確に住民に情報を周知するとともに、避難訓練などをするよう呼び掛けた以上、そんな言い訳も通用しない。  しかも官邸は4月24日にも、メールマガジンで、北朝鮮の弾道ミサイル発射を警戒し、国民に「身を守るためにとるべき行動」を確認するよう注意喚起した。メルマガでのミサイル警戒情報の発信は初めてのことだ。  敢えてメールでも発信したのは、政府がミサイル攻撃を受けた時の注意を呼び掛けていることを、マスコミが積極的に報じていないからだ。東日本大震災のとき、「想定外」をさんざん批判したマスコミだが、今回もマスコミの動きは鈍い。  大事なことは、情報の周知と事前の対策だ。  いざというとき、どういう仕組みで政府や地方自治体などが対応するのか、知っているのと知らないのとでは、全く違ってくる。  例えば、文科省も「学校の危機管理マニュアル」にミサイル対応を追加する形で改訂するとともに、学校におけるミサイル危機対応についての情報を児童・生徒に教え、避難訓練を実施するよう全国の教育委員会に周知すべきだ。同様に厚生労働省は、全国の福祉施設にも注意喚起をすべきだろう。福祉施設からすれば、入所者をどう避難させるのかは切実な問題のはずだ。  あまり論じられていないが、パニックによる被害も恐ろしい。冷静に事態に対処するためにも予め、危機対応についての正確な情報を提供しておくべきなのだ。  戦後、憲法を守っていれば、戦争に巻き込まれず平和を維持できると思ってきた。が、憲法では、北朝鮮のミサイルを防げないことを政府も認めた。言い換えれば、外国から攻撃されることを前提に政府も地方自治体も、我々国民も予め準備に準備をしておかなければ、自分の身も家族も守れないことがはっきりしつつある。  来る5月3日は、憲法記念日。「国民を守れない憲法」から「国民を守ることができる憲法」へ、改憲論議もあわせて進めていきたいものだ。 【江崎道朗】 1962年、東京都生まれ。評論家。九州大学文学部哲学科を卒業後、月刊誌編集長、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、外交・安全保障の政策提案に取り組む。著書に『アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄』(祥伝社)、『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』(青林堂)、『コミンテルンとルーズヴェルトの時限爆弾』(展転社)など
(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

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