日本のウイスキーが世界から注目される理由とは? ビジネスマンのための一目おかれる酒知識
【江口まゆみ】
神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学卒業。酒紀行家。1995年より「酔っぱライター」として世界中の知られざる地酒を飲み歩き、日本国内でも日本酒・焼酎・ビール・ワイン・ウイスキーの現場を100軒以上訪ねる。酒に関する著書多数。SSI認定利き酒師、JCBA認定ビアテイスター
一方、余市では、2日間かけて「マイウイスキーづくり」を体験しました。1日目はまずキルン塔に登って、ピートに燻されながら麦芽を広げて乾燥させる作業。続いて糖化槽を見に行き、甘い麦汁と、発酵が終わった酸っぱい醪を飲ませてもらいました。
次は蒸溜棟へ。余市では直火で蒸溜しているので、ポットスチルの下にスコップで石炭をくべるのです。これでかなり疲れたところで、今度は糖化槽の中に入り、麦汁が抜かれた後のカスを掃除しました。糖化槽の中は蒸し風呂のような暑さです。
翌日は製樽工場を見学。樽は手作りで、「チャー」といって中を焼く作業や、たがを締める作業、側板の隙間に蒲の葉を詰めてパッキングする作業などを見ることができました。
そしていよいよこの日に蒸溜したばかりのニューポットの樽詰めです。ニューポットはアルコール65度で、セメダイン臭のする無色透明なスピリッツでした。これを詰めた樽をゴロゴロと転がして熟成庫へ搬入し、すべての作業は終了。熟成するまで10年間、ここで寝かせておくということでした。
さて、ちょうどNHKで『マッサン』が放映中の12月、雪が降り積もるマイナス3度の寒さをものともせず、余市は信じられないほどの数の観光客でした。あんなに売れなかったウイスキーが、ハイボールブームから人気に火がつき、『マッサン』で大ブレイクするとは、10年前に誰が予想したでしょうか。そう、この年に約束の10年目がやってきて、余市で蔵出しのパーティーがあったのです。
パーティー会場には私と同じ10年前に「マイウイスキーづくり」をした人たちが集まっていて、一緒に作業したグループの人たちとも再会できました。
マイウイスキーは、バレルの新樽で熟成した、加水なしのカスクストレングス(一つの樽からボトリングした原酒)です。ウッディでバニラのようなクリーミーな香りに、チョコレートのコクとビター感。野球にたとえれば、剛速球の直球。ああ、ニッカの味だなと思いました。
会場にいるのは、かなりのウイスキー好き、それも「ニッカ命」みたいな人ばかりです。なにせ全国から自費で北海道まで、ウイスキーをつくりに来た人たちですからね。だからきっとライバル会社の悪口を言う人がいるに違いないと思っていましたが、みんな口々に、
「ニッカがこんなに美味しいのはサントリーのおかげだよね」
「そうそう、お互い切磋琢磨する相手がいたからこそ、いいウイスキーができたんだよ」
と言っているのです。これには本当に感動しましたし、変な勘ぐりをしていた自分が恥ずかしくなりました。
質実剛健なニッカと華やかなサントリー。性格が違うからこそお互いに引き立て合い、日本人ばかりでなく、世界の人々の心をもつかんでいるのだと思います。
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