渡辺浩弐の日々是コージ中
第341回
12月12日「ガンボってほしかった…」
・バンダイのプロデューサー宮澤さん(新垣結衣似)のはからいにて、すがやみつる先生と、雑君保プ先生と、飲む。面白いメンツでしょう?
・すがや先生は早稲田の演劇博物館での調べモノ帰りで、大量の古書をかついでおられる(「漫画」を研究分析した書物が昭和初期に随分たくさん出ていたということを僕は初めて知った)。マンガを専門学校ではなく大学や大学院で教えられる&学べるもの、つまり「学問」にするための体系的な研究を続けておられるようだ。今この国でこれは極めて重要な仕事といえるだろう。それをはしょっていきなり漫画学部なんて作っても意味がないのである。
・それから、コミック・ガンボの話。コンテンツ系の新ビジネスは、作品と作家をどれほど正当に扱うことができるか、その能力で決まるように思う。新ビジネスの成否はその点である程度、予想できる。ベンチャーキャピタルは作家をリサーチするべきである。
・宮澤さんから、超合金ロケットパンチのペンをもらった。これは盛り上がる!
12月13日「この人と会うと」
・香山哲さんと会う。V字回復請負人(?)のあの人だ。新しい名刺を出されて驚いた。今はあのゲームメーカーに呼ばれて手伝っているというのである。
・この人には会ったと書くだけで何をおっぱじめたのかと多方面から聞かれる。そういうタイプの人なのである。いや、ほら、例のあの件をあーしてこーするためにあんなこんな仕掛けをやってるわけである。
12月14日「DSを配信端末として」
・『DS文学全集』のインターフェイスはとても良い。操作の方法ではなく操作の感覚を優先してデザインされているからだ。小説の次は、マンガだろう。
・黒川文雄さんと会う。いやそっちの黒川文雄さんじゃなくて、あっちの黒川文雄さん。例のDSビジョンのam3の社長です。DS向け配信事業の、特にコンテンツについての考え方を直接いろいろと聞きたかったのだ。
・日本では、iフォンのような通信端末よりも携帯ゲーム機が先行すると僕は思っている。間違いのないことは、今後コンテンツメーカーは、ケータイだけでなくゲーム機向けに配信していくフォーマットで各作品を整理しておかなくてはならないということだ。
・というか、そういうアウトプットを前提に編集プロセスを一新する覚悟をしている文芸誌やコミック誌はないかな。
第340回
12月7日「灯を点ける時」
・ニワンゴ。杉本社長と会う。一大ムーブメントとなったニコニコ動画の今後などについて聞く。このお祭り騒ぎには明るい未来に繋がるものがある。ユーザーだけでなく各コンテンツメーカーも、今は無条件で応援するべきだと思う。ルールは後から付いてくるはずなのだ。
・回線の確保はかなり大変みたいだ。既に日本の全有効トラフィックの12分の1を使ってしまっているらしい。ただ、僕はこの点は楽観視して良いと思っている。実は日本には使われていない極太回線がたくさんある。80年代のニューメディア政策の成果として、90年代にインフラはかなり先行して構築された。回線に大容量のコンテンツを流すニーズがやっと生まれた今、それを目覚めさせるべきなのである。もちろん再整備も含めて国家施策としてやってもらいたい。こういうところで国力をたくわえておくことが重要なのだ。
12月10日「よくあるパターン」
・マンガ家のTAGROさんとアポイント。3年も前から一緒にお仕事させて頂き、盛んにメールのやりとりもさせて頂きつつ、直接会うのは初めてである。楽しみに待っていたところが、TAGROさん、来ず。結局、担当編集者とだけ打ち合わせ。その内容をそのまま伝えてもらうという形になった。
・ところが夜、別件の飲み会に参加していたところに編集者さんがTAGROさん連れてやってきた。さっき打ち合わせで話した内容をもう一回最初から話して下さいと言う。どうもTAGROさんは、もともとのアポを聞いていなかったようだ。そして当方は酔っぱらっている。そこは飲み屋である。テーブルの上は食いかけの刺身とか毛蟹とか散乱している。そしてこの仕事に全く関係のない人達も同席している。結局、話にならず、日を改めることに。
・良く考えると、これ、先方にしてみたら「いきなり飲み屋に呼び出して仕事の話をしようとする嫌な業界人」そのものである。嫌われただろうなぁ。
12月11日「渡辺浩弐→渡邊浩貳」
・台湾の出版社・全力出版のリン社長、来日。この人とも普段しょっちゅうメール交換をしているので久しぶりという感じがしない。ラノベ、マンガなど各種コンテンツのデジタル化戦略、それに伴ってマーケットを全アジアに拡大する方法論などについて話す。作家としては、そういう動きにのっとって作品のスタイルを変えようという意識はない。多くの情報を集めよく考えることによって、自然と変わっていくものなのだ。
・リンさんには中国語も教えていただいていて、感謝している。例えば「ひきこもり」という言葉の翻訳だって、なかなか難しいのである。
・最近、中文に翻訳された自分の小説を、元の文章を自動翻訳サイトに通して確認したりしている。これが中国語の勉強というより、平易かつ簡潔な文章を書くためのトレーニングとなる。直訳ですらずばりと通じるような文章が、今の時代には求められているのだ。と、いうことに気づいてから星新一さんの文章の熟練度と国際性を今更、再発見。
・台湾の話をいろいろ聞く。気候は暖かくて、情報密度は濃くて、アジア目線の仕事をするための拠点としてとても良さそうだ。日本の、特にこの季節の風情は、捨てがたいけどね。
第339回
12月2日「急告」
・『日月時男のひきこもり日記』にて、新展開。「挑戦状」が提示されているよ。
・ある「謎」の正解者100名には、とんでもないものが贈呈されてしまう。多くは言えないが、早い者勝ちなので、急いで見にいってください。
12月3日「何をコージーしているのでしょうか?」
・キラー通りの食品衛生センターにて、講習を受ける。食品衛生責任者の資格を取るのである。会場のスキンヘッド率の高さにビビったが、講習の過程でその理由がわかった。
・消費期限と賞味期限の二重設定の理由など、最近の具体的な事件の例を引用しつつの解説は、非常に興味深かった。食品衛生の法律や条令は昨今ますます厳しくなっているが、調理場のレイアウト形式や素材の表示方法など、規則で縛ることにはそろそろ矛盾が出そうだ。それよりも、菌の状態をこまめに抜き打ちチェックして、基準値をオーバーしたところには厳罰、という形の方が良いのではないだろうか。
・ところで、食べ物を出すお店を始めるには板前さんとかコックさんの修行をする必要があると思うでしょ。2、3年料理学校に通ったり、包丁さばきの実技試験受けたりして。法的には、その必要はない。たった1日のこの講習で取れる資格があれば料理してお客に出していいのである。では調理師免許って何なのって話になる。既に料理が上手いのに調理師免許を取るために学校行く人がいるけれど、就職するためにはくをつけようってのなら別だけど、自分で開業するためには不要な資格なのではないのか。この点がわからない。
・この国は資格のための資格、というものが多すぎるような気がする。若い人は、そういうものを気にしすぎてはいけない。さまざまな情報や知識を簡単に得られる時代なんだから、やりたいことがあるなら資格なんて気にせずにどんどんやればいい。学校を探すのは最後の方法だと思う。
12月4日「世界で一番おいしいコーヒーを作る」
・講談社BOXの会議室にて。コーヒーマイスターの後藤紗也佳さんと焙煎職人の後藤祐樹さんに来てもらい、コーヒーの徹底研究。
・豆の種類のセレクションはもちろんだけど、それぞれの煎り方、挽き方、淹れ方をいろいろなパターンで試して、味のイメージをしっかりと確認していく。このプロセス、改めてどこかにちゃんと書きます。
・味は非常に主観的なものだから、おいしいものはおいしい、で良いのだが、それを他人に勧める可能性がある人は、そのおいしさをはっきり定量化する作業を一度はやっておくべきなのだ。勘とか職人技というようなもので卓越できる人はそうざらにいるわけではない。
・そういうこととは別に、おいしいコーヒーって、ほっんと、おいしいんですね。頭くらくらするよ。ドラッグなんてやってる場合じゃない。