渡辺浩弐の日々是コージ中
第321回
7月21日「ゴルゴに追いついた?」
・『オーシャンズ13』。13ってことはあっという間にFFシリーズを追い越した…のか? このシリーズは本当に名人芸のような緻密なシナリオが魅力で、やっぱりDVD買って何度も観ちゃいそうだ。例えば主役級スターが10人もいると見せ場を1人10分作るだけで100分になる。前作、前々作に関係した小ネタもたくさん仕込まれている。それらをジグソーパズルのように組み合わせつつ、実にダイナミックでギミカルな犯罪を、今回も実行させてしまう。例えばカジノで様々なギャンブルに興じている客全員に、仕組まれていると気づかせずに勝たせる方法、など。すごいアイデア満載。
・カジノを舞台に最新のテクノロジーがいろいろ登場していて、ディテールまで興味深い。ギャンブル中の客一人一人を監視し心理状態を分析するコンピュータ・システムとか。詐欺も泥棒も映画監督も今はコンピュータとネットワークの知識が必須となっているわけだ。
7月22日「金より土地より、セックスだ」
・『セカンドライフ』はどうなるのだろう。今のところ、企業の作った(作らせた)豪華なショウルームはたいていがらがらだ。その会社の担当者は果たして見に来てるのだろうか。そして、混んでいるところに行くとみんなセックスしてる。本当にセックスばかりをしている。いろいろな形の性器とかを買って自分の体に装着するのがサイバネティックで面白い。少年少女がふと性器だけでも自分でモデリングしてみようかなんて思いついたりしたら、そこから何かが生まれるかもしれない。
・インターネットも黎明期にはこんな感じだった。企業の形式的な宣伝サイトとエロサイトばかりで、つまらないと言う人がとても多かった。しかし、面白いことを自分で作る気のある人だけは楽しめたのだ。『セカンドライフ』も同じだと思う。
・商業価値を期待してやって来ている企業や代理店が知るべきなのは、ここが現実世界とくに資本主義世界とは違う価値観の上に成り立つ空間だということだ。例えばここの土地面積は不動産としての価値にも媒体スペースとしての価値に置き換わらない。別の哲学が求められるのだ。
・ところで建設中の状態が見られるのが面白いですね。それ自体がイベントの予告になる。これからはあちこちで夏祭りが開催されるみたいだ。写真は神楽坂祭@リアル。
7月29日「政権変わればできるのか?」
・年金問題は、個人の公的データをデジタル化するという歴史的な大事業が入口でこけたということの恐ろしさを誰もきちんと捉えていないのが残念だ。今、国としていちばん大事な仕事なのに。アナログからデジタルへの移行は人類レベルの大変革であり、それも絶対に大至急に進めなければいけないことであり、いい加減に行うと社会が崩壊する危機につながることである。
・年寄りのお偉いさんは紙が安心だと思っていつまでもこだわってるわけだが、結局現場の馬鹿が適当に扱ったりなくしてしまったりしたらかえって取り返しがつかなくなるのだ。紙の領収書なんて簡単に偽造できるものを証拠に使うなんてことも現実的ではない(年金払った払わないのクレームと確認について、これから数十年間にわたって気が遠くなるほどの大混乱が続くことは必至である)。今後はできるだけ早く完全にデータ化して厳重にバックアップしておくべきだ。そのデータの保管と証明について、専門の第三者機関を使えばいい。
・それから、実印はこの際、廃止してしまえば良いと思う。こんなものが証明になるなんて思ってる人はもういないんじゃないか。
第320回
7月18日「面白がってれば大丈夫」
・ひらきこもり推奨者としてはユーチューブよりニコニコ動画なわけである。投稿ビデオに視聴者がコメントだけでなくアフィリエートリンクを貼ることができるシステム「ニコニコ市場」が始まった。つまりカットアップされた映像やMADムービーからその本家というか引用もとの製品が売れていくという道筋ができる。
・重要なのは著作権者にメリットが生じることだけではなく、視聴者が感謝やリスペクトの念をリンク作業あるいはそこからのコンテンツ購入によって表せるようになること、そしてそんな状況がある意識変革を喚起すること。例えば電波ソングについてはお布施の意図でここからパッケージを買う人も多くなるのではと思う。
・クリエーターは矛盾しきったしきたりにしがみつくオッサン達のことはもう気にせずにどんどん作ればいい。観客はピンと来たものをどんどんはやしたてればいい。良いもの面白いものは自然と加速して大きくなっていく。
7月19日「チュウ房」
・『レミーのおいしいレストラン』。見る前に99%の人が予想する全くその通りのストーリー展開。そのぶん映像に集中できるわけだが、しすぎると引いてしまうかもしれない。ネズミの造形や挙動があまりにもリアルで、大群のシーンはスティーブン・キングのパニックホラーのようだ。ネズミ嫌いの人でもミッキーマウスやピカチュウを見て気持ち悪くなることはないわけだが、この映画はちょっと違うかも。
・ディズニー/ピクサーをはじめとするアメリカのアニメーション工房は3D-CG技術力と労力を注ぎ込むことに転換した。つまり作品制作を資本主義的な世界に組み込んでしまったわけだ。この先には、デフォルメーションのセンスで勝負していく道はない。とことんリアルにしていくしかないのである。
・ここで今「ネズミ」をテーマにしたのはすごい勇気だ。ディズニーアニメをミッキーの時点までリセットした、つまり2Dアニメの歴史と決別したということである。ここまで腹をくくって突き進むのならその先に「リアルだけどバーチャル」な表現が生まれていくのではないかと思える。日本のアニメやゲームは体力勝負を避け、2D(的)デフォルメーションの方法論をとことん追求し続けるべきだと思う。
・ところでネズミは本当に美味しいらしい。畑正憲・大先生は「牛肉より美味」と書いていた。
7月20日「ノスタルジーではなく」
・最近の『コミックボンボン』が面白かった。リアルなゴキブリが主人公の須賀原洋行先生『ゴキちゃん』とか。いましろたかし先生と小林まこと先生が猫妖怪もの(『化け猫あんずちゃん』『ガブリン』)でかぶってしまってたこととか。つい最近(昨年末)まで赤塚不二夫先生が連載を持っていて(『天才バカボン』)、巻末コメントまで毎回書いていたという奇跡とか。
・コロコロとボンボンはキャラクターコミック誌というイメージが強いけど、本当の地盤はドラえもんやガンダムではなかったのではないだろうか。劇的に収益が伸びたのは、ファミコンのブームに乗った時である。高橋名人時代はハドソンと、そしてポケモン時代になると任天堂とがっちり組んだコロコロがやはり圧倒してしまった。良くも悪くも作家の育成より作品のプロデュースが重視される傾向は、そのあたりから強くなったわけだ。
・低年齢層向けに新しいコンテンツをアプローチしようという時、今ならゲームメーカーはどんな出版メディアとジョイントしたいと思うだろうか……そういうことを主眼にコミック誌をプロデュースしても良いと思う。オンラインコンテンツも同様だ。
第319回
7月17日「PS陣営の近況」
・六本木ヒルズ内の映画館にて「プレイステーションプレミア2007」……SCE主催による、マスコミ向けのプレイステーション戦略発表会。PS3については各社から総計40タイトルの映像がプレゼンされた。「これからまだまだがんばります」という姿勢の表明機会である。
・オンラインサービスとしてはバーチャル都市『PLAYSTATION Home』が、この空間に自分の庭を造るアプリケーション『GARDEN』とともにショウイングされた。地形を作り緑を配置し川を流し、季節や天候とともにうつろいゆく風景を楽しむことができる。木々は成長し季節によってそれぞれの花が咲き乱れ様々な動物も訪れる。映像を見るだけで「セカンドライフ」なんかやってられない、と思えてしまうほどのクオリティーだ。サービス対象の端末が1種類であるという点は技術的には有利だがマーケティング的には不利だ(ソニー主体でやっていく限り勝手商売や18禁サービスは不可能だが、それこそがまさに今セカンドライフの最大の吸引力なのである)。ただし『PLAYSTATION Home』については新しいスタイルのポータルとしての可能性がある。うまく展開していけば、PS3の本体はマシンではなくここ、と言えるようになるだろう。
・オンライン機能を活用するゲームソフトとしては『リトルビッグプラネット』に注目しておきたい。アクションゲームだが、マップをプレイヤーが自作し、かつ公開することができる。立体世界を作るための材料がそのまま世界観となっている。ブロックとか、積み木とか、紙とか粘土とか、オモチャとか日常の小物とか……それぞれの素材感が驚くほど生々しくて、切ったり削ったり積んだり伸ばしたりこねたりする操作がとても気持ちよさそう。それらの全てが物理計算に基づいて徹底的にリアルに転がり、揺れ、落ち、跳ねるのである。
・完成間近の段階まで仕上がっていたビッグタイトルは『グランツーリスモ5プロローグ』『メタルギアソリッド4』『鉄拳6』など。どれも目を見張るほどの美しさだった。ただしPS3はまだ大衆機ではなく高級機だ。作り手は細かい部分のクオリティーを実現することに没頭していると思うが、今に限って言うと一般ゲーマーの財布を開かせるために必要なのはユーチューブ画像で3秒で訴求できるような魅力なのだ。ただ、ソニーはあせっていないと推測する。このマシンは次代のハイデフ環境すなわちハイビジョンモニターや5.1ch環境と一緒に普及させていくつもりなのだろう。
・ゲームマニアは大型ハイビジョンモニターを買うのか、買うとしたらいつ買うのか、という点が重要だ。僕は次の山は来年後半だと思う。ソフトメーカーとしては、2011年あたりまでにこつこつと良作をためておくという戦略もある。そういうことができるのは余裕のあるメーカーに限られるだろうが、先行投資はきっと報われるだろう。ところでPS・PS2のソフトもPS3で再生しハイビジョンに表示すると見違えるほど美しくなる。これはゲームマニアの人にはぜひ体験してもらいたい。
・PSP軽量バージョン(9/20発売 ¥19,800)は持ちやすくて非常に良い。ワンセグ対応(チューナー¥6,980)でTV放送も見られる。ビデオ出力も可能になり、TV画面で遊ぶこともできる。映像版ウォークマンとしてのニーズに応える機能だ。
・ソニーはPSPを、据え置き機の不調期に任天堂を支えたゲームボーイみたいな存在に位置付けることができるかもしれない。今年の上半期に元も売れたゲームソフトはポケモンでもWiiスポーツでもなくPSPの『モンスターハンターポータブル2nd』だったのである。中堅どころのメーカーとしてはオリジナル作品をきちんと作ってきちんと稼げる場所になっている。そしてダウンロードソフトだけでなくパッケージとしても、過去のPS ・PS2タイトルがどんどん遊べるようになるだろう。
・さて次の国民的大ヒット作品はどこから出てくるか。大穴はPS2だ。