渡辺浩弐の日々是コージ中
第190回
11月18日「うらやましいでしょう」
・仕事場から徒歩15秒のところにメイドカフェができてしまった。今日廊下をぼんやり歩いていたら、コスプレ女子高制服姿の子と、曲がり角の出会い頭にぶつかりそうになった。食パンくわえていてほしかったなぁ。
11月19日「映画祭のファンクション」
・先頃成功裡に終わった東京国際映画祭で事務局長を務められた境さんと会う。今年はコンテンツマーケット「エンタマ」とのジョイントなど新機軸も多く、大変なご苦労だったと思う。今は充電中かと思いきや、来年の映画祭に向けて問題点の整理や新企画の案出と、早くも超多忙とのこと。なるほど本来映画祭とはこんなふうに年中休みなく進んでいるべきものなのである。
・今年から来年にかけてデジタルエンターテインメント産業の最大のテーマは「映画」だろう。この波を捉えるにはある程度ダイナミックな協力態勢が必須なので、映画祭というファンクションは非常に重要なのだ。
11月20日「映画館って楽しい」
・新宿の映画館ミラノ座で『世界のCMフェスティバル2004 IN TOKYO』。毎年やってるオールナイトイベントなんだけど知ってた? ショートムービーの上映会としては最も成功しているものだと僕は思う。
・数十秒の「一発芸」映像が延々と続くわけで、客席の賑やかさが大変に好ましい。作品の短さは間断ないお祭り騒ぎに向いているのだ。会場じゅうで歓声と拍手がおさまることがない。それが夜11時から朝の6時まで続くのである。いいなあ。やっぱり映画館って、一種の祝祭空間ですよね。
・騒ぎやすいように客にカスタネットやマラカスを配っておく、とか、幕間にバンドのライブや曲芸を入れる、あるいは飲料メーカーの協賛を取り付けフリードリンクサービスを行う、等、主催者側の工夫も効いている。広告業界はバブル期の余裕でこういう文化を生み、それを維持している。CG業界やゲーム業界はどうだろう?
第189回
11月9日「主役:NY」
・『TAXY NY』試写。NYの街中を、チタン製スーパー・チャージャー仕様の改造車タクシーでぶっとばす。その一発アイデアが最高に演出されていて、気持ちいいったら、ない。
・マンハッタンの道路事情がうまく使われている。すさまじい渋滞、一方通行だらけの場所、舗装工事がいいかげんな凹凸アスファルト、幅が太くなったり狭くなったりしている道……と、様々な状況をものすごい運転で走り回る。
・映画やアニメの業界ではとにかく「キャラ」を立てることが最重要と思われているフシがある。それは正しい。ただし、そのキャラは人間じゃなくても、例えば「街」でもいいのではないか。
・最近のハリウッド映画はNYやLAといった、ある意味くたびれた街の魅力をキャラクターとして使う技法に目覚めている。日本の街にも、面白い使い方ができるところが結構ありそうな気がする。渋谷だって新宿だって、秋葉だって中野だって。
11月10日「そんなアメリカ」
・『ニュースの天才』試写。1998年、アメリカのメジャー政治雑誌『THE NEWREPUBLIC』で起きた一大スキャンダルを映画化したもの。若手人気記者スティーブン・グラスが次々とものしたスクープ記事の大半が捏造だった、という事件だ。
・マスコミ業界の最前線にいるヤッピーが破滅していくプロセスは、派手な作りもできる題材だが、それをすごく地味に、登場人物達の心理描写を軸に見せる。
・嘘が暴かれてからもしゃあしゃあとしらを切ろうとする、あるいはしまいには逆ギレする若手記者の厚顔ぶり、そしてそんな彼を必死でかばおうとする同僚達の正義感(?)がとても現代アメリカ的だ。
・さて「そんなアメリカ」を非難するのが今の流行りみたいだけど、例えば日本のジャーナリズムでこれほどの事件はおきっこない。それはなぜだろうか、と考えると、もしかしたらこっちの方が絶望的なのではと思えてくる。
11月17日「インターネット的ギャラリー」
・「デザインフェスタギャラリー」に。知り合いのデザイナー「ヒヂリ」さんが個展を開催するというので、そのプロセスを拝見させてもらうことにしたのだ。普段はネットを拠点に活動されている人だが、こういう場は特に素材感や立体感のある作品を展示する機会として貴重だという(ヒヂリさんの展示は24日まで=写真)。
・この欄でも一度紹介したことがあるが、このギャラリーは、デザインフェスタの常設スペースだ。原宿のアパートを一軒まるごと改造して、一部屋ごとに貸しているもの。6畳くらいの小部屋が一週間4~5万で借りられる。告知はネットをうまく使って行えば、それ以外の費用はほとんどかからないようだ。泊まれる部屋もあるし、モノを販売しても良いらしい。限定ショップとして機能させてもいいというわけだ。
・新しい人が新しい作品を、既存のシステムに取り組んだり取り込まれたりする苦労をせずに発表できる場は、街のあちこちにもっともっと増えてほしい。インターネットは素晴らしいけれども、それだけでは不足なのである。こういう場所を活用することによって、バーチャル世界でやっている表現活動や商業行為を現実の空間にはみ出させる、そういう戦略が成立するわけである。
第188回
11月5日「1週間小説家」
・誰にも知らせずにまたこっそり逃げている。とは言っても遊んでるんじゃないぞ。完全小説家モードで仕事。まず、プラトニックチェーン・シリーズの長編小説版『晴れときどき女子高生』。無事、書き上がった。単行本が12月には出るぞー。
・プラトニックチェーンのコミックも順調。こちらは長編版だけでなくアンソロジー版も続くことになり、12月に2冊同時発売が決まったよー。
・つまりこの年末、プラチェ関係で3冊ほぼ同時リリースになります。↓『プラトニックチェーン 第2巻』(コミック/スクウェア-エニックス)『プラトニックチェーン セレクテッド・ストーリーズ 第2巻』(アンソロジーコミック/スクウェア-エニックス)『晴れときどき女子高生 /プラトニックチェーン』(長編小説/集英社)
・さらに文芸誌「ファウスト」誌に掲載予定のショート・ショート『Hな人人』完成。今回は2本、載ります。
・続いて文芸誌「メフィスト」誌掲載用の中編も、書き上がる。ものすごく異様なものになったような気がする。帰京したら担当編集者の太田さんと良く話し合ってみようと思う。
11月6日「中野でも沖縄」
・戻ってきた。と思ったら中野でりんけんバンド。まだ沖縄気分。
・いいなあ沖縄音楽。特に音楽業界の人でこいつにヤられて移住してしまう人が多いのも、頷ける。て去年も同じようなこと書いてたかな。
11月7日「ススメます」
・スクエニの担当編集者、熊さんが『爆笑問題のススメ』からの出演依頼をつないでくれた。毎回、作家が一人出るトーク番組です。
・はい、出ます。あの番組、実は出たいと思ってた。それも、今、このタイミングに。あのレギュラー出演者の方々とぜひ話してみたいテーマが、あったのだ。ネットを回遊してる方々ならピンと来るかもしれない、例の件です。
・というわけで二つ返事(というか一つ返事)。なので渡辺浩弐はラストテロップ「交渉中の作家」リストから「近日出演予定の作家」リストへの移行があっという間だった。井上雄彦さんみたいにひっぱった方が、かっこ良かったかな……。